※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 4連覇が評価され、最優秀選手賞を受賞したボルチン・オレッグ(山梨学院大)
3年半前、アジア・ジュニア選手権3位の実績で来日。軽量級のような身のこなしで、当時の学生チャンピオンを相手に高速タックルを次々と決める鮮烈デビュー。カザフスタンからの最強留学生としてこの4年間、学生の重量級マットで大暴れ。近年の山梨学院大の躍進に大きく貢献した。
今回、山梨学院大は2連覇を目指していただけに、ボルチンの活躍は大いに期待されていた。だが、決勝は全日本王者の山本泰輝(拓大)に開始早々、高速タックルで2失点。予定外の追う展開となってしまった。ボルチンは「普通に勝てると思ってしまい、少し油断していたところがあったし、山本選手も強くなっていた」と反省。
目には目を―。タックルにはタックルを―。得意技で反撃に行くかと思いきや、山本に組みついて差してプレッシャーをかけて追い詰めるという意外な展開を見せた。「この大会、タックルはほとんど出していません。グレコローマンの練習をずっとしていたら、スタイルがグレコローマンっぽくなってしまった。タックルは必要ありませんでした」。
“グレコローマン・レスリング”で逆転勝ちした決勝
「グレコローマン選手権から今大会まで日が浅かったので、グレコローマンのスタイルのままになってしまった」と苦笑するが、得意技を封印しての優勝に満足そうな笑みを浮かべた。
「昔は、タックルしかできなくて、差されたら逃げていた。山梨学院大で組み手や差しを覚えることができて、今では自分から差しにいきます」。ボルチンの強烈な圧力が山本の体力をじわじわ奪い、終盤には何度も場外においやって逆転した。
■卒業後はブシロード所属でオリンピック出場を目指す
今回は学生最後の試合だった。「個人では4連覇しましたし、山梨学院大のためにいい仕事をしたと思います。今日はいい試合ができなかったけど、12点(1位に与えられる得点)をしっかり取れました」と、チームに貢献できたことに笑顔がはじけた。レスリングは個人競技だが、ボルチンには、チームのためという気持ちが常にある。「チームがなかったら、僕の4連覇もない。高田先生(裕司=監督)、小幡(邦彦)コーチ、そしてチームのみんなのおかげです」と感謝の気持ちをつづった。
観戦に来ていた地元選手からサインや写真撮影をせがまれたボルチン
入学時、日本語が全く話せず、取材時には通訳が必要だったボルチンも、今では流ちょうな日本語が話せるようになった。「日本人のガールフレンドができて日本語がうまくなったの?」という問いには、顔を赤くして「まだ…(いません)」と恥ずかしげに答え、「日本語も仲間のおかげで覚えられた。日本に来てよかった。みんな優しかった」と4年間を振り返った。
今後も日本を拠点に強化し、予選時にはカザフスタンに戻って試合をするスタンスになりそう。「全日本選手権など日本の大会にも出場できたらうれしい」と切望したが、現在の全日本選手権は日本国籍を保有するものに定められている。しかし、社会人の2大会(全日本社会人選手権、全国社会人オープン選手権)への出場は可能。来年の夏には、金髪のボルチンが社会人のマットで鮮烈デビューしているかもしれない。