※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=樋口郁夫) 2年連続5度目の優勝の山梨学院大
この日は山梨学院大が“絶対”ともくろんでいた70kg級(藤波勇飛)のほか、74kg級(木下貴輪)が勝ち、65kg級の乙黒圭祐も5位入賞の順調だったのに対し、拓大は74kg級の優勝候補の浅井翼が初戦敗退で対抗得点のポイント「0」の不覚。午前の早い時間に演じられた番狂わせで、流れは山梨学院大へ大きく傾いた。
高田裕司監督は「ラッキーでしたね。拓大がつまずいてくれて…。めったにあることじゃない。この大会の怖さです」と第一声。前夜、最終日の組み合わせを見た時、「きついな、と思った。藤波が取ったとしても、残り2階級は拓大にもっていかれることを覚悟していた」と言う。
ふたを開けてみると拓大が自滅してくれた。74kg級の浅井が決勝に進んで木下を破れば、山梨学院大のポイントが3点下がり、拓大のポイントが12点増えるので、ともに55点。上位選手の数で優勝が決まる状況だった。
また、日体大が初日の5階級で40点くらい取る可能性も予想。「その場合、(日体大の中量級はやや落ちるので)10点差くらいでつけていれば優勝圏内」という計算もしていたという。ところが、日体大も2階級で0ポイントに終わり、初日で実質的な白黒がついた。
前学生王者を破り、ガッツポーズの木下貴輪
■2013・14年大会の連続2位が飛躍のエネルギー
ただ、山梨学院大が7階級で対抗得点のポイントを取り(8位以内)、残る1階級も敗者復活戦に回った末に僅差で9位だった善戦だったことは評価している。「ほぼ全階級でポイントを取ったのはウチくらいじゃないかな。0点があると厳しい大会だから」と、チームが一丸となって上位を目指した団結力を称え、自チーム選手の踏ん張りも強調した。
選手に対しては、「優勝しろ」と言うとプレッシャーがかかるので、「3位でいい。1回負けてもいいんだ」と伝え、リラックスを求めたという。だが、敗者復活戦に回るには相手が決勝に進む必要があるわけで、中堅選手に負けてはその道がない。8階級で3位を狙える選手がそろっているチーム力は「素晴らしい」と言うべきだろう。
2年連続でフリースタイルの2大会を制し、来年以降も両大会制覇が目標となる。しかし、「リーグ戦はともかく、この大会はどうかな? 組み合わせの加減でどう変わるか分からないから、読めないよ」と、日体大、日大、拓大が達成している3連覇に対しては威勢のいい言葉が出てこなかった。さて本心は?
山梨学院大の中量級を支えた藤波勇飛
「国内の大会なら、74kg級でも86kg級でも勝ちますよ。でも、世界でメダルを取るには65kg級。(体力の落ちない)きちんとした減量をさせたい」と、万全を期して全日本王者を目指させる腹積もりだ。
小幡邦彦コーチは「他のチームとの差はないと思っていたし、組み合わせも悪かった。そんな中での優勝で、底力を見せられたかな」と、選手の踏ん張りにちょっぴり鼻高々。
2013年大会は早大に逆転され、2014年大会は日大に逆転され、いずれも2位に終わっていた。対抗得点で両大会とも2階級で0点があり、これが優勝を阻んだ。「ポカがあった」。その悔しさは小幡コーチの胸に刻まれているが、「3年生、4年生もその悔しさを経験している。逆に、拓大は優勝から離れているので、0点がある怖さを経験している選手がいない。その差が出たのではないでしょうか」と言う。
「チーム全員の勝利です」という言葉に実感がこもっていた山梨学院大の2連覇だった。