2026.07.18NEW

【2026年全日本社会人選手権・特集】「0コンマ数秒」の差でパリを逃した南條早映(自衛隊)が力強く復活!

 2024年パリ・オリンピック代表を「0コンマ数秒」の差で逃した南條早映(自衛隊)が力強く復活した。2026年全日本社会人選手権の女子59kg級に出場した南條は、2021年東京オリンピック金メダリストの恒村友香子(サントリー)を含めて4試合をフォールかテクニカルスペリオリティで快勝。57kg級でのロサンゼルス・オリンピック代表争いに向けて実力をアピールした。

 南條は「グラウンドのワンチャンスで大量点を取る練習をしていた。その通りにできました」とにっこり。今大会は「12月(全日本選手権)につながるよう、とにかく挑戦しよう、という気持ちでした」とのことで、決勝のみ4失点してしまったが、「課題となりました。(それが見つかって)よかったです」と言う。

▲4試合に圧勝し、にっこり笑顔の南條早映(自衛隊)

 「大量点を取る」という言葉は、当たっていないような気がする。今大会で多く見られたシーンは、「またさき」という“古典的な技”。現在のグラウンド技の主流はローリングとアンクルホールドで、一度はまってしまえば一気にポイントが積み重なり、あっという間に10点差がつく試合も少なくない。

 「またさき」はフォールにもっていく技で、相手の肩がつかなければ2点しか入らない。「ポイントを重ねる技」ではない。テクニカルフォール(現テクニカルスペリオリティ)が導入された1981年以降、徐々に“主役”の座から消え、ピリオド制が実施された時期(2005~13年途中)は“死滅”に近い技だった。

 だが南條は今大会、全試合でこの技を出した。テークダウンを奪って、まず狙うのはローリングだが、こらえられたり、防がれそうになったりすると間髪を入れずに仕掛ける「またさき」に、相手はなすすべもなくかかってしまった。

 主役の座を降りた「またさき」ゆえに、かけられることを予想していないし、防御方法を知らない選手がほとんどなので、それも当然か。若い指導者の中には、練習ではともかく、試合ではかけたこともなければ、かけられたこともない人が多いのではないか。

▲オリンピック・チャンピオン(恒村友香子)にも決めた「またさき」

若手からの失点に、闘志全開の攻撃で圧勝

 決勝の野口紗英(山梨学院大)との一戦は、戦慄を感じさせる気迫だった。自滅のような形でバックを取られ、ローリングで0-4と先制される不覚。昨年のインターハイ・チャンピオンとはいえ、シニアではまだ実績のない選手からの失点が南條の闘志に火をつけた。その体勢になると「またさき」、さらに通称「地獄固め」-。

 「地獄固め」とは、背骨を攻めてフォールに持っていく「またさき」に加え、相手の顔をがっちりロックすることで、脱出を難しくする恐怖の技。逃げたとしても体力を消耗しているので、その後の展開で大きな優位をつかめる。今の時代、練習でコーチや先輩が執拗にこの技を続け、痛めつけたなら、「パワハラ」と認定されかねないのではないか。

▲脚を固め、背骨から首も攻める“痛め技”、通称「地獄固め」。ローリングとアンクルホールド全盛で、試合でほとんど見られなくなった技を何度も披露した南條早映

 試合では、首を絞めたり口や鼻を押さえたりしない限り反則にはならない。試合の最後にも「地獄固め」を決めてテクニカルスペリオリティ勝ち。鬼気あふれる南條の表情は、ロサンゼルス・オリンピック代表権獲得の並々ならぬ闘志そのものだった。

 会場にいた至学館大時代の恩師、栄和人・現モンゴル総監督は「南條の場合、相手の脚を折りたたんで仕掛けるので、脚にもダメージを与えている。強烈だよ。大きな武器だね」と話した。

 南條は、10年くらい前からこの技を使っていると説明した。「グラウンドの得意技があると、試合展開が楽になるので」と、その強みのフル活用を決意。今後、「だれにでもかかるように精度を高めていきたい」と言う。防御を教えられる指導者も少ないと思われるので、ここまで完成された「またさき」を持っているのは大きな強みだ。

▲「またさき」に行くと見せかけ、他のグラウンド技で攻める。多彩なグラウンド技がさえ、4試合で42点をマークした(1フォール勝ち)

意識の高い選手の中でレスリングに集中できる環境

 パリ・オリンピックを目指した2023年7月の櫻井つぐみとのプレーオフで、いったんは手が上がりながら、ビデオチェックの結果、ラスト「0コンマ数秒」で自身の肩が返っていると判定され、代表権獲得の道が閉ざされた。その経験は、「人生で一番衝撃的な出来事。思い出すと苦しくなることが多かった」と言う。「立ち直った?」との問いに、「一生、立ち直れないと思います」と答えた。

 それでも、「その経験が自分の強み、と言えるよう、新たな自分で闘っていきたい。いま最高の環境の中でレスリングを続けられることに感謝し、頑張りたい」と、前を向ける状態になっている。自衛隊での練習は、意識の高い選手に囲まれて切磋琢磨でき、コーチもハイレベル。何の心配もない環境の中で「レスリングに集中できる」と言う。

▲期待の若手を鬼気迫る表情でにらみつける南條早映。その向こうにはあるのは、藤波朱理の顔か?

 勝負となる12月の全日本選手権は、もちろん57kg級。チャンピオンの藤波朱理(レスター)とは、練習で闘う限り、かなり差をつけられているという感覚があるそうだ。それでも、「やられる中からいいところを吸収し、同じレベルにもっていきたい」と言う。今回、挑戦者の気持ちに徹して、いい結果が出たので、「12月もその気持ちで臨み、後悔のないようにしたい」と語気を強めた。

 藤波の独壇場になるとも思えた57kg級。昨年12月の全日本選手権でフォール勝ち寸前の状況に追い込んだ德原姫花(自衛隊)に続き、「またさき」という強烈な武器をもった南條が、藤波の行く手に立ちはだかる-。