(文・撮影=保高幸子)
2024年パリ・オリンピック金メダリスト、櫻井つぐみさんが監督を務める高知レスリングクラブ香南市教室(高知県香南市)が5月末にオープンした。櫻井さんが通っていた香南市立野市小学校に隣接する場所だ。
市の児童クラブとして使われていた建物が現在は空いており、ここを借りて教室を開くことになった。ちょうどマット1面分あるスペースで、エアコンも完備されている。高知レスリングクラブは、もともとあった東教室と香南市教室の2拠点でやっていくことになる。高知レスリングクラブの代表は父の櫻井優史さん、香南市教室の監督はつぐみさんという布陣。
香南市教室にはスタートから1ヶ月で39人が集まった。香南市だけでなく、他の場所からも興味を持った子どもたちがレスリングに取り組んだ。女性指導者を求めて隣の徳島県から通う女子選手もいるそうだ。
モットーは「高知から世界へ」だ。櫻井さんは「これは昔から父が言ってた言葉です。いい言葉だなって思うし、高知から世界って目指すの難しいだろうなって思ってる子どもたちに、現実的だと思って頑張るきっかけになってくれたらいいなって思います」と説明。教室の壁にもチームTシャツにも、そこかしこに掲げられている。
地元の香南市は、やはり「帰ってきた、と感じられる場所」。今まで高知市や宿毛でもキッズレスリングは行われてきたが、「県の東側でもできたらいいなって思っていた。オリンピックの影響もあって、皆さんレスリングに興味持ってくださっているので、今ならそれをいかしてできるんじゃないかな」とスタートを決意した。
パリ・オリンピックのあとに行った体験教室にも、香南市教室が始まってからも、「自分たちの想像以上に集まってくれ、みんな楽しそうにやっていて、すごくうれしい」と微笑む。
スタートして1ヶ月以上がたち、現在は週1回、運動を楽しむ“習い事”としての強度だが、「長く続けていけば、試合で優勝したいという子も出てくると思うので、そのときは両方の教室に参加できるようにしたり、うまく連携して、いろいろなプランを考えていきます」。
これまでは、ボランティアで指導することが多かったレスリングだが、ここでは無償奉仕に頼るのではなく、対価を支払ってレスリングに関わる人を増やしていきたいという思いがある。
「特に地方では、指導者1人に負担が偏ったり、その人がいなくなると存続できなくなるようなチームが多かったと思う。継続して何十年後も残っていく組織にするための仕組みを作っていきたい」と考えている。
レスリングが好きなOBや関係者は少なくなくても、無償奉仕では依頼することもはばかられ、自発他発問わず、無償奉仕がネックとなることも出てくる。これでは、競技や組織の発展は望めない。「お金をもらうことに罪悪感がある方もいると思いますが、若い世代がもっと関わりたいって思えるように変えていきたい」と構想を語るつぐみさん。
「主な収入源とまではいかなくても、教えた分は返ってくるようなシステムにしたい。すでに香南市教室はたくさんの企業の方にもサポートをしていただき、地域の方に力を借りています。これからも支援いただいて、レスリングを通じて地域に貢献できる組織にしていこうと考えてます」。
高知から世界へ羽ばたく子供達を継続して輩出するためにも、人材を継続して確保する施策も重要だ。
マイナースポーツであり、その中でも高知県というレスリング発展途上だった場所で育ち、同い年でレスリングを続けたのは清岡幸大郎(現カクシングループ)ただ1人だったつぐみさん。「子供達にはいろんなスポーツをやって、その中でもレスリング楽しいな、となってくれたら、うれしい。学校で、みんながサッカーや野球だけでなく、レスリングが話題になり、メジャーなスポーツになったらいいなって思います」と夢を語る。
つぐみさんは現在、高知大学で日本の小学生のレスリングの現状について研究しており修士論文に取り組んでいるところ。「この大会でも集まってくれるみなさんに協力してもらおうと思っています。保護者、指導者、子供たちにアンケートを取って、その相互関係だったり、そういうのを実際はどうなのかっていうのを聞いて修論を書いていきたい」。
クラブ経営には言うまでもなく、今後コーチとして地域のレスリングを盛り上げていく土台となるだろう。
「高知が好きなので、ここでずっとレスリングに関わって、将来、子供たちがこの人に習ってよかったって思えるような指導者になりたい。まだ難しいことばかりですが、日々勉強しながらやってます」
「高知から世界へ」を成し遂げたつぐみさんの新しい挑戦は、始まったばかりだ。