(文=布施鋼治)
想像をはるかに超える結末にこそ、心が震えるような興奮や感動がある。2026東日本学生リーグ戦は、まさにそうだった。優勝を争うと見られていた山梨学院大や日体大を抑え、日大が23年ぶりの優勝を成し遂げた。
今年の日大は“ダークホース”というべき存在だった。今年の明治杯全日本選抜選手権・男子フリースタイル57kg級を制した永井陸斗、成長著しい吉田アラシの弟で74kg級の吉田アリヤ、高校・大学の先輩の吉田アラシに鍛えられて組み手が飛躍的に向上した125kg級の藤田宝星ら、二強の選手と比較しても何ら遜色のない実力者が顔をそろえていたが、7階級での闘いになると差が感じられた。ダークホースはダークホースのまま、というシビアな見方もできた、。
ただ、予選リーグから日大はいつもとは違った力を見せつける。それを顕著に表していたのが2階席の応援団との連携だった。大会2日目、日体大の応援団と比べると人数こそ劣っていたが、応援のボルテージでは逆に上回っていた。試合のインターバル中も熱気を冷めさせまいと応援を続け、マット上で闘う選手はそれを背中で受けている感じだった。
この日最大のクライマックスは、ともに全勝で迎えた日体大との予選B組5回戦だろう。昨年のリーグ戦での日体大との対戦は1-6で敗れているが、今年は大違い。“先鋒”で出場した70kg級の碓井晴登主将が昨年の明治杯3位の細川周を4-1で破る殊勲の星を挙げた。
その後、日体大が3連勝して一気に“王手”をかけたが、残る61kg級の永井陸斗、86kg級に起用された吉田アリヤ、126kg級の藤田宝星が周囲の期待に応えるかのように3連勝をマーク。13年ぶりに打倒日体大を果たした。
迎えた最終日。準決勝で育英大に薄氷を踏む思いながら勝った日大は、3連覇を目指す山梨学院大との決勝に臨んだ。シビアに予想すれば、いくら前日に日体大を破り勢いづいているとはいえ、2連覇中の山梨学院大を下すのは至難の業のように思えた。
総合力で判断すれば、「山梨の方が上」という見方をする者が多かった。しかし、勢いは時に過去のデータに基づく予想を凌駕することを、この日の日大が証明した。
最大の勝因は、一番手の吉田アリヤ(74kg級)、二番手の倉本亮弥(57kg級)が連勝し、前日の勢いをさらに膨らませたことに尽きる。とりわけ倉本が、山梨学院の主将で今年のU23全日本選手権で優勝している勝目を6-4で下したことは大きかった。
試合終了間際、倉本はバックを奪われ、一瞬だが両手と両ヒザがマットについているかのようにも見えたが、審判団の判断はノーポイント。山梨サイドはすぐにチャレンジを出したが、「ノーコントロール」で判定が覆ることはなかった。
第6試合に出場して優勝を決めた65kg級の伊藤洋行も、内田怜児と競り合った末、残り4秒で両足首をすくうような打点の低い両足タックル。テークダウンを奪い、虎の子の2点を奪取して劇的な優勝を決めた。
表彰式後、真っ先に歓喜の胴上げの主となった齊藤将士監督は「正直、(勝つのは)アリヤのところだけかな、とさえ思っていました」と振り返った。「勝因は学生たちの我慢強さですね。普段練習してきたことを出し切っていた。感動ものです。人って、すごいなと思いました」
齊藤監督の指摘通り、日大勢の執念やしつこさを含んだ我慢強さは特筆に値した。耐えるところは徹底的に耐え、チャンスと見るや思い切って反撃を試みる。その大胆さが功を奏した格好だ。
チーム全体のリーダーとして活躍し、大会のMVPを獲得した碓井晴登主将は、表彰式後にも「優勝に言葉がない。まだ実感が湧きません」と語る。「でも、危ない橋は渡らず、泥くさく闘う日大らしい闘い方はできたんじゃないかと思います。高校時代に特別な実績のない自分でも、監督は見捨てることなく育ててくれました」と感慨無量。
山梨学院大と日体大の二強時代に、日大が快進撃を演じて風穴を空けた。準決勝では、その日大に3-4と肉薄した育英大の躍進も見逃せない。東日本学生リーグは戦国時代へと突入したのか-。