(文=樋口郁夫)
2019年夏から約6年10ヶ月間、負けを知らなかった女子50kg級の勝目結羽(愛知・至学館高)が、1回戦を不戦勝のあと、2回戦で全日本選手権2位の森川晴凪(至学館大)に1-3で敗れ、連勝記録が「81」でストップした。
勝目は「至学館の先輩なので、手の内が分かっていた。行ける、と思ってしまって、いつもの自分の攻めができなかった」と敗戦の弁。森川は昨年のU23世界選手権のチャンピオンで、全日本選手権では2年連続2位の強豪。対して、自身はシニアの大会に初出場。勝つことは厳しい現実を見つめつつ、「プレッシャーは相手の方が上だったと思うので、勝てるんじゃないかな、と思いました」と話し、ちょっぴり残念そう。
ただ、「勝てる可能性のある試合だった。シニアの舞台でやれなくはない、と思いました」とも話し、今後へ向けての手ごたえは十分。課題はたくさん見つかり、「思い切りのよさがなかった。挑戦者らしく、もっと攻められたと思う」との反省も忘れず、久しぶりの黒星を機に再スタートを切る。
最後に負けたのは、2019年全国少年少女選手権・5年30kg級の部に女子として参加し、決勝で対戦した久保音晴(東京・LOTUS=現青森・八工大一高)との一戦。中学へ進み、世界レスリング連盟(UWW)のルールになってからの試合を数えると、今大会での敗戦が82試合目での黒星だった。
UWWルールになってから(中学進学以降)の無敗記録といえば、須﨑優衣(現キッツ)が高校1年生(2015年)の全日本選手権決勝で入江ゆき(自衛隊)に敗れるまで83連勝をマークしていた(注=当時、女子は16歳で全日本選手権に出場できた)。
現在、連勝記録で注目を集めている藤波朱理(レスター)、119連勝、個人戦に限れば206連勝の吉田沙保里、不戦敗を除いて189連勝の伊調馨などは、中学の初期の頃には負けている。中学に進んでからの無敗記録が続いていたのは、須﨑と勝目しかいなかった。
勝目は、中学1年生のとき(2021年)のジュニアクイーンズカップ、全国中学生選手権、全日本女子オープン選手権がコロナで軒並み中止。大会があれば、1年生だったので負けていたかもしれないが、連勝記録を積み重ねていた可能性もあった。
もっとも、勝ち続けることは、当人にとってプレッシャーになることは否定できまい。勝目は、連勝記録が途切れたことについて、「最近は勝ち続けることがプレッシャーになっていた。負ける怖さを知らなかったので、負けてよかったかな、と思います」と、さばさばした表情。
吉田沙保里の連勝が「119」でストップしたとき、ホッケー男子で天理大を331連勝に導いた恩田昌史・女子日本代表監督は「自分に重圧をかけていた分、ホッとした部分もあるのではないか。目標を切り替え、次のスタートを切ることが大事」と、水球男子で376連勝をマークした日体大の清原伸彦監督は「連勝中は絶えず負ける恐ろしさを感じてきた。気持ちを切り替え、これまでの努力や練習が無駄でないことを実証してほしい」と話し、勝ち続けることの呪縛を口にした。それから解き放されての強さを期待し、吉田はそれにこたえた。
世間的には注目されていなかったが、勝目には大なり小なりプレッシャーがあったことは間違いあるまい。須﨑がそうだったように、負けを知った勝目が本当に成長するのは、これからだ。