(文=布施鋼治)
先生は世界やアジアで闘えるレスラー。2026年明治杯全日本選抜選手権第2日(5月22日)、女子72㎏級のプレーオフで吉武まひろ(長崎県協会)は竹元紫凛(育英大)を5-1で破り、世界選手権出場の切符を手にした。
「グラウンドでポイントを取って、そのまま終わらせるのが理想だった。実際には、タックルに入ってグラウンドで一回だけ回しての勝ち。もうちょっと(ポイントを)取りにいこうか、というところもあったけど、自分のスタイルは出せたと思う」
昨年12月の天皇杯全日本選手権で、吉武はこの階級で優勝している。当然、明治杯でも優勝を狙ったが、準決勝で武元に6-11で敗北を喫してしまった。「明治杯でも勝ってストレートで決めたかった。でも、ローリングでたくさん点数を取られて負けてしまいました。でも、負けても『もう一回チャンスがある』と結構ポジティブにとらえていました」
竹元は京都・丹後緑風高校出身で、今年のジュニアクイーンズカップU20-68kg級の優勝者。吉武を破った勢いで、決勝では同U20ー72kg級優勝の吉田千沙都(南九州大)を撃破し、初めてシニアの全国大会を制した。
「竹元選手は階級を上げてきた選手、(初対戦なので)どういうやり口なのかなどがあまり分からないまま明治杯で闘いました。一度組んでみて、だいたい相手のスタイルもわかったので、相手(竹元)が何をされたら嫌がるのかを練りました。(自分の)3位決定戦のときからプレーオフのことだけを考えていましたね」
プレーオフで竹元と再戦する前には、バックをとられてから回された教訓をいかし、「だったらバックをやらなければいい」と方向を改めた。「相手の身長は高いので、守るときには構えを低くするように心がけました。低く構えたら入りにくいと思ったので」
今春、吉武は母校である島原高校・定時制の保健体育の教師として採用された。「去年採用試験に合格して、正式に赴任することになりました」
もっとも、4月の始業式のときはアジア選手権に出場しており、生徒とは顔を合わせることができなかった。「帰国してから初めて会って授業をしました。皆さん、わたしがレスリングをやっていることは知っていて、『ちょっと教えてよ』と言われたりしています(微笑)」
定時制の授業は、普通科の部活動の時間とも重なり合う。「わたしもちょうど部活動の時間に授業を担当していることが多い。なので、授業が空いているときに、ちょっと練習に行って、担当する授業に戻ってみたいな感じで、結構バタバタしながら練習しています。今までは(前職の)特別支援学校から島原高校に通っていたけど、いまは同じ高校にレスリング部があるので、行きやすさは全然違う。練習時間も組み立てやすい」
教壇に立ちながら現役を続ける教員レスラーはいた。女子なら、黎明期に活躍した清水真理子(埼玉・埼玉栄高教=当時)、オリンピック種目になってから世界選手権に出場した選手は、正田絢子(現京都・網野高教=当時)。吉武は教員レスラーの鑑と言ってもいいだろう。
現在の練習は、時間をやりくりして週2~3回。「練習相手は、もちろん高校生の男子ばかり。常に女子の相手を想定しながらやっている感じですね。アジア選手権前には女子部員がいる南九州大に出げいこに行っていました」
吉武は世界選手権出場を決定するプレーオフに2度出場し、いずれも敗れている。今回の出場は、まさに三度目の正直。日本レスリング史に新たなページを刻むのか。