「辛い経験をプラスに変えた強さ 無敵の白星街道が止まった夜」
文=中村亜希子(東京スポーツ新聞社)
北京五輪を約7ヶ月後に控えた2008年1月19日、無敵の白星街道を突っ走っていた吉田沙保里の連勝が、試合にタッチすべき立場でない審判員長の介入により、ストップした。衝撃の時を東京スポーツのらつ腕記者が描写。
(本文より)
何よりも私が勝利以外をまったく考慮に入れていなかった。この日は土曜日で、夕刊紙の本紙(大阪、中京スポーツを含む)は休刊。九州地域で朝刊として発行される九州スポーツの記事だけを書く日だ。
「早版」と呼ばれる最初の版の締め切り時間が迫っていたため、事前に予定稿を書いてメールで九州スポーツのデスクに提出した。試合終了と同時にデスクに電話し、「米国に何対何で勝利した」という事実を電話で告げればよい状態にしておいた。
恥を忍んで告白するが、勝利原稿しか用意しておらず、この予定稿には何の疑いもなく「この日、120に連勝記録を伸ばした吉田は…」という一文を書いていた。
マット下でメモを取りながら試合を観戦した。開始25秒、吉田が珍しくバックを取られ、先制点を取られた。この時点では、「あれ?」と思いながらも逆転を疑わなかった。1分30秒、反撃に出た吉田がバンデュセンを豪快なタックルで場外へ出し、3点をゲット。3―1リードで試合が再開された。