※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 初の全国タイトルを獲得した鶴田峻大(自衛隊)。左は日本社会人連盟の早坂孝会長
■「柔道を趣味で続けるよりも、真剣に物事に取り組んでみたい」とレスリングへ
自衛隊所属で全日本王者を倒したほどの実力者だが、レスリング歴はわずか1年半。ポテンシャルの高さが魅力。高校時代は沖縄・沖縄尚学高校で柔道部に所属し、高校2年生の時に九州大会90kg級2位の実績がある。柔道出身で浦添工高校からレスリング選手として活躍した志喜屋正明(現自衛隊)とは顔見知りだったという。
高校卒業後、鶴田は柔道で自衛隊体育学校の入校を希望してセレクションを受けた。当時のレスリング班の元木康年ヘッドコーチは「柔道のセレクションを見ていて、足も速く身体能力の高さに魅力を感じました。手足も長く、グレコローマンにはうってつけの選手。レスリングをやらせたら強くなると思った」と、初めて鶴田を見た時の感想を振り返る。
決勝で闘う鶴田
時間が経つにつれて鶴田の考えは変わっていった。「オリンピックを本気で目指すところで、人生を一回試してみたい。一般自衛官として柔道を趣味で続けるよりも、真剣に物事に取り組んでみたい」という気持ちが大きくなり、スカウトから3週間後、レスリング班に入校することを決意した。
■スタンド中心となるグレコローマンの新ルール変更が追い風となった
レスリング選手としてスタートを切った鶴田だったが、競技を始めた当初は、「肌がピタピタに触れて、違和感はありました」と戸惑いもあったようだ。慣れるのに時間はかからなかった。「鶴巻(宰)さんや、岡(太一)さん、角(雅人)さんなどトップレベルの先輩たちにボコボコにやられて毎日悔しかった」と振り返るが、強くなっていることを日に日に実感するようになる。
トップ選手と練習をこなすうちにポイントを獲られなくなり、ディフェンスができるようになると、今度は攻撃面を強化。「差しはよくできていると褒められる」と武器もできた。今大会、全日本王者の前田を攻略したのも強烈な差しを使って前に出たことが大きかった。
早ければ来年初めに世界へ飛び立つか。
当面は非オリンピック階級の80kg級で世界を目指す。鶴田はレスリングのキャリア1年半での戴冠に、「初めて優勝できてうれしいです」と淡々と振り返り、笑顔を浮かべることはなかった。「(この優勝で)喜んだらダメかなと思っている。コーチを信じてもっと強くなりたいです。柔道時代も含めて国際大会に出たことがないので、80kg級で全日本チャンピオンになって外国人と闘ってみたいです。これも元木コーチらに声をかけてもらったおかげ。強くなって恩返ししたいです」と目標を掲げた。
高校卒業後、レスリングを始めて国際大会で活躍した選手と言えば、近年だと2004年アテネ&2008年北京オリンピック代表の松本慎吾・現日体大監督や、2010年世界選手権5位の金久保武大(ALSOK)がいる。金久保はレスリング歴4年目で全日本選抜王者になりスピード出世した。
鶴田も柔道選手のメリットを生かしてレスリング界で頂点に立てるか―。