※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 両スタイルに出場し、金と銀を獲得した北村公平(阪神酒販)
同大会は1日で全スタイルが行われるため、両スタイルに出る場合は1日6試合というハードな日程になる。特に規制はなく、本人のやる気さえあれば出場可能だ。
北村は両スタイルに出場した経緯について実戦不足を挙げた。「社会人はあまり試合がありません。今シーズン、僕は全日本選抜選手権で1試合、国体で2試合しかできずに負けました。練習のスパーリングを試合のように取り組んでいても限界があるので、(12月の)全日本選手権前に追い込んだ実戦を体験しておきたかったのです」。
■グレコローマンの練習でチャレンジャー精神を思い出す
フリースタイルを主戦場としている北村の現在の練習割合は、フリースタイルが「6」でグレコローマンが「4」と、グレコローマンの割合がかなり高い。上半身を鍛えたり、接近戦の組み手を練習することが主な理由だが、北村がグレコローマンに時間を割くにはもう一つ理由がある。
フリースタイルでは順当勝ち
今のようにトップ選手として続けていくにはメンタルが重要。少し前まで若手扱いだった北村も、フリースタイル74kg級では、すっかりベテランの域になり、追われる立場が増えた。「プレッシャーあります」と追い詰められることもしばしば。
そんな時、「チャレンジャー精神を思い出させてくれる」ものが北村にとってグレコローマンだった。「今回も組み合わせを見て、全日本チャンピオンの泉さんと対戦できる。楽しいと思った」と、わくわくしながらマットにあがったという。
北村は遠間からの高速タックルが得意だったが、グレコローマンを取り入れたことで接近戦も自信が出てきた。武器も増えて挑戦する気持ちも思い出せる。北村にとってグレコローマンは本業のフリースタイルとはまた別の視点で重要なパーツだ。
■全日本選手権はフリースタイル出場の予定だが…
グレコローマン決勝で世界選手権代表の泉武志と闘う北村
フリースタイルからグレコローマンの転向と言えば、10月上旬の岩手国体でもあった。5月の全日本選抜選手権王者の松本篤史(ALSOK)がグレコローマンに出場して優勝。全日本選手権ではグレコローマンで出場することを明言している。北村は「篤史さんの結果を見て、『僕がやろうとしていたこと(両スタイルで全日本の出場権を獲ること)を先にやられた』と思いました」と苦笑いを浮かべた。
恩師の早大・太田拓弥コーチが、フリースタイルでもグレコローマンが大切と、1996年アトランタ・オリンピックの代表になる前にグレコローマンの選手に練習パートナーをお願いして力をつけたことは有名な話。北村は「恩師が両方大切だといつも言っている。その教えのまま今でも練習に取り組んでいます」と話す。
フリースタイル74kg級は、大学3年の奥井眞生(国士舘大)が全日本選抜王者で、早大の後輩となる山崎弥十朗が学生王者、高校(京都・京都八幡高)の後輩の浅井翼(拓大)が国体王者と、期待の若手が多数いる。「全日本選抜選手権は学生2人が決勝を争っていた。社会人選手としては悔しいので、全日本選手権では頑張りたいです。限界? まだ感じていません」。
北村が社会人の意地を全日本選手権で見せつけられるか―。