2016.11.01

【全国社会人オープン選手権・特集】フリースタイル優勝、グレコローマン2位の5勝1敗…北村公平(阪神酒販)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=増渕由気子)

 「目標は両スタイル優勝だったので、グレコローマンを取りこぼしてしまい、物足りなさを感じています」。全国社会人オープン選手権の男子フリースタイル74kg級で優勝を飾った北村公平(阪神酒販)は、グレコローマン75kg級で2位に終わり、両スタイル制覇を逃したことを悔しがった。

 同大会は1日で全スタイルが行われるため、両スタイルに出る場合は1日6試合というハードな日程になる。特に規制はなく、本人のやる気さえあれば出場可能だ。

 北村は両スタイルに出場した経緯について実戦不足を挙げた。「社会人はあまり試合がありません。今シーズン、僕は全日本選抜選手権で1試合、国体で2試合しかできずに負けました。練習のスパーリングを試合のように取り組んでいても限界があるので、(12月の)全日本選手権前に追い込んだ実戦を体験しておきたかったのです」。

■グレコローマンの練習でチャレンジャー精神を思い出す

 フリースタイルを主戦場としている北村の現在の練習割合は、フリースタイルが「6」でグレコローマンが「4」と、グレコローマンの割合がかなり高い。上半身を鍛えたり、接近戦の組み手を練習することが主な理由だが、北村がグレコローマンに時間を割くにはもう一つ理由がある。

 高校三冠王や学生王者の経歴を持ち、若手のホープと言われた北村も25歳。今年のリオデジャネイロ・オリンピックを目指すも、元世界2位の高谷惣亮(ALSOK)の壁は高かった。リオの夢が破れて現役を去る決意をした仲間もちらほら。北村は「リオに行けなくて、けじめをつけようかなと考えたんですが、まだレスリングを辞めたくないという気持ちが大きかったんです」と、現役続行の意思を示した。

 今のようにトップ選手として続けていくにはメンタルが重要。少し前まで若手扱いだった北村も、フリースタイル74kg級では、すっかりベテランの域になり、追われる立場が増えた。「プレッシャーあります」と追い詰められることもしばしば。

 そんな時、「チャレンジャー精神を思い出させてくれる」ものが北村にとってグレコローマンだった。「今回も組み合わせを見て、全日本チャンピオンの泉さんと対戦できる。楽しいと思った」と、わくわくしながらマットにあがったという。

 北村は遠間からの高速タックルが得意だったが、グレコローマンを取り入れたことで接近戦も自信が出てきた。武器も増えて挑戦する気持ちも思い出せる。北村にとってグレコローマンは本業のフリースタイルとはまた別の視点で重要なパーツだ。

■全日本選手権はフリースタイル出場の予定だが…

 学生時代にタイトルから見放された時、グレコローマンで結果を残したことでレスリングの楽しさを取り戻せた過去がある。全日本大学グレコローマン選手権を2連覇した当時は「グレコローマン転向はない。僕はあくまでフリースタイル」と言い切っていたが、「今回、グレコローマンで優勝して両スタイルで出場資格を取ったら、全日本選手権でフリースタイルとグレコ、どちらに出るか本気に悩みたいと思っていました(笑)」と、ぜいたくな悩みに浸りたい気持ちもあったようだ。

 フリースタイルからグレコローマンの転向と言えば、10月上旬の岩手国体でもあった。5月の全日本選抜選手権王者の松本篤史(ALSOK)がグレコローマンに出場して優勝。全日本選手権ではグレコローマンで出場することを明言している。北村は「篤史さんの結果を見て、『僕がやろうとしていたこと(両スタイルで全日本の出場権を獲ること)を先にやられた』と思いました」と苦笑いを浮かべた。

 恩師の早大・太田拓弥コーチが、フリースタイルでもグレコローマンが大切と、1996年アトランタ・オリンピックの代表になる前にグレコローマンの選手に練習パートナーをお願いして力をつけたことは有名な話。北村は「恩師が両方大切だといつも言っている。その教えのまま今でも練習に取り組んでいます」と話す。

 フリースタイル74kg級は、大学3年の奥井眞生(国士舘大)が全日本選抜王者で、早大の後輩となる山崎弥十朗が学生王者、高校(京都・京都八幡高)の後輩の浅井翼(拓大)が国体王者と、期待の若手が多数いる。「全日本選抜選手権は学生2人が決勝を争っていた。社会人選手としては悔しいので、全日本選手権では頑張りたいです。限界? まだ感じていません」。

 北村が社会人の意地を全日本選手権で見せつけられるか―。