2012.04.01

【特集】8月5日、高らかに君が代が鳴り響く!…男子グレコローマン55kg級・長谷川恒平(福一漁業)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

金メダルを手にした長谷川

 【アスタナ(カザフスタン)】「出場枠を取るだけでなく、優勝しないとね」。男子グレコローマン55kg級の長谷川恒平(福一漁業)は、決勝で世界選手権5度優勝のハミド・スーリヤン(イラン)と対戦する約2時間前、そう話した。

 スーリヤンを破って2010年アジア大会以来の優勝を達成したあと、「4年前の予選でスーリヤンに敗れオリンピックに出られなかった苦い思いがある。これで4年前と違うところを示せたと思います。ずっと研究してきた相手。問題なく勝てたと言えば、勝てました。練習通りのものが出ました」と話した。

 4年前は大きく投げられて敗れる屈辱の黒星だった。本ホームページには逆さまにされて投げられた写真が掲載され、その悔しさをばねに打倒スーリヤンを目指した。1年4ヶ月前にスーリヤンの壁を乗り越えたが、周囲からは「勝っちゃったね」と言われ、ラッキーな勝利と位置づけられた。

 今回は「勝ったね」と言われ、一歩前進。ロンドン五輪ではスーリヤンとの対戦の組み合わせになった段階で、「(安全パイ相手で)ラッキーだね」と言われるような長谷川の強さ。ロンドン五輪の金メダルが、はっきり見えてきた。

■必死で優勝を狙ってきたスーリヤン

 五輪出場枠を取るための大会だ。決勝進出が決まった段階で、その“宝物”を手にできる。決勝は負けても構わない試合。けがをしている選手は、それを悪化させないようにセーブするだろうし、悲願が達成した場合は緊張の糸が切れ、気合を入れようにも入らないケースが出てきても当然だろう。

第1ピリオド、スーリヤンのローリングをがっちり守った

 長谷川はこの大会の目標を「優勝」に置いていた。五輪出場枠獲得は通過点。準決勝で勝ったあとも、気持ちがゆるむことはなかった。相手は長年目標にしていたスーリヤン。いやがおうでも気持ちは乗った。

 自分の気持ちが乗っても、もし相手が“消化試合”という意識で臨んできたら、長谷川の闘志も萎えたかもしれない。試合前のスーリヤンの必死のウォーミングアップを見たら、「それは絶対にない」と感じたという。

 世界選手権に5度優勝しているスーリヤンだが、2010年のアジア大会では長谷川に敗れてメダルを逃し、昨年の世界選手権はイラン協会と衝突して代表をはずされた。12月のプレ五輪(英国)の60kg級に出たものの5位。ある階級で抜群の強さの選手なら、上の階級でもメダルは取れるのが普通だ。

 こうした結果から、圧倒的な強さを誇ったスーリヤンも落日を感じていることは間違いない。ここで優勝し、イラン協会と世界に実力をアピールしておこうと考えていることは想像に難くない。

■世界V5の選手が相手とは思えない快勝

 そんなスーリヤンを、長谷川は“手順”にのっとって料理した。第1ピリオドのグラウンドの防御。ヒヤリとするシーンが一度だけあったが、しっかりと守り切った。アジア大会の準決勝第3ピリオドもスーリヤンのグラウンド攻撃を守っての勝利。これでスーリヤンのグラウンド攻撃を2度連続で守ったことになる。

スーリヤンを回した長谷川。残り数秒あったが、勝利のVサイン

 第2ピリオドも1分30秒を0-0で終わり、今度は長谷川のグラウンドの攻撃。ここではしっかりと回し、貴重な2点を獲得。本当に世界V5の選手との試合だったのか、と思わせるような試合内容は、今夏のロンドン五輪の金メダルへ向けて大きく前進したことを意味するだろう。

 グラウンド勝負を仕掛けたのではないという。スタンド戦でもポイントを狙っていったが、この部分では相手も強く、2ピリオドともポイントは取れなかった。スタンド戦はまだ互角の実力なのだろうが、グラウンドでの実力は、あきらかに長谷川が上と感じさせた一戦だった。

 今年1月には世界2位の選手を破るなど、世界のトップ選手を順調につぶしている。しかし「去年負けたからから、ここにいるんです」と手綱はゆるめない。

 五輪の金メダルは、何度か闘って勝率がいい選手がもらうものではない。10回闘って9回勝てる相手であっても、残りの1回が五輪なら金メダルは手にできない厳しい闘いの場だ。

 やり直しのきかない一発勝負。8月5日、日本陣営のトップを切って長谷川が日本男子24年ぶりの金メダルに挑む-。