※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美、撮影=飯島隆)
伊藤と吉岡監督
2年生で国体を優勝した伊藤にとって、今大会は優勝が当然という位置づけだったことだろう。木下貴輪(鹿児島・鹿屋中央)との決勝戦では、第1ピリオド、タックルを突破口にグラウンド技を次々と決めて6-0でテクニカルフォール。第2ピリオドも1分すぎにタックルで1点を奪ってストレートで栄冠を手にした。
優勝の瞬間、さほど表情を変えなかった伊藤。その理由は100パーセントのレスリングができなかったからだ。吉岡治監督は「股関節のけががありました。実力はこの階級では伊藤が抜けていると思ったが、けがと緊張する性格のため、本調子ではなかったんです」。伊藤も、「たまに痛かった」と打ち明けた。
追い討ちをかけたのが、チームメイトで2010年千葉国体50㎏級優勝の高谷大地が、骨折のため今大会を棄権してしまったこと。伊藤は「大地の分まで、勝たないとと思った」と振り返る。吉岡監督は、「チームの期待を一度に背負ってしまったのかも」と伊藤を思いやった。
■全日本トップ選手との練習でさらなる意識改革
フィジカル、メンタルともに万全ではない状況で優勝できたのは、昨年12月の全日本選手権に出場し、2010年アジア大会銀の小田裕之と対戦したこと。この経験が、伊藤に変化をもたらした。吉岡監督は「小田選手に負けて、さらにその後の合宿で湯元健一選手(ALSOK)と練習する機会があったんです。そうしたら、伊藤が『このままじゃダメだ』と言い出したんです」と説明する。
決勝で闘う伊藤
伊藤に次の目標を聞くと、意外な答えが返ってきた。「個人戦は全国制覇をした。今度の夏は団体で優勝したい」。網野も強豪には違いないが、団体では優勝がない。
長年、学校対抗戦は霞ヶ浦がほぼ独占状態にあったが、今大会は浦添工(沖縄)が初優勝を果たした。「夢はかなうんだと思った。やればできるんだ」-。高校三冠王より団体優勝を掲げた伊藤和真の高校最後のシーズンが始まった。