※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 大学の先輩を倒して久々の優勝を手にした阿部宏隆(サコス)
阿部は「やっと優勝できた。いつも2番や3番だったので、どんな内容でも優勝はうれしいです」と笑顔。国士舘大の時は全日本選手権の表彰台も経験し、学生トップ選手の一人ではあったものの、「優勝」という2文字には、あまり縁がなかった。「優勝したのは、大学1年秋の新人選手権以来。本当に久々に優勝できた」としみじみと振り返った。
今回の65kg級のレベルは、全日本級の選手が数人出ていて、歯ごたえのあるトーナメントだった。その中でも準決勝で対戦した有元は、現役の全日本選抜王者。階級こそ61kg級をメーンにしている選手だが、阿部自身も学生時代は61kg級を主戦場としていたため、長年のライバルだ。
「有元選手には過去2回負けたことある。ここがヤマ場だと思っていた。どんな試合でも絶対勝つ」とマットに上がった阿部は、前に出るレスリングで有元から着々と得点を奪って5-2とリードしていた。 有元伸吾から終盤にニアフォールを奪って再逆転
終盤に取られて負けることは阿部の負けパターンだった。学生時代、激戦区であっても勝ち抜ける力を持ちながら、2位、3位に甘んじていたのは、ラストをしのぎ切れない部分が大きかった。
■いつもの負けパターンをはね返した社員の大声援
いつもの負けパターンの展開に阿部を奮い立たせたのは、約20人に及ぶ所属のサコスの社員による声援だった。「休みの日なのにたくさんの方が来てくれ、応援してくださった。その気持ちに応えたくて必死で闘いました」。アスナビで入社したサコスは、この大会に阿部が出場することを全社メールで展開し、応援を促してくれた。
大所帯の国士舘時代も大声援の中で闘ってきた阿部は、社会人になっても変わらぬ声援の中で試合ができることに感謝の気持ちでいっぱいだった。 表彰式。左から2位=金城、優勝=阿部、3位=有元
決勝は、自衛隊の集合教育を受けて今年4月からレスリング班で本格的に競技活動を再開した大学の先輩、金城との対決。有元との激戦を制した後だったこともあり、先制点を許すが、ワンチャンスを逃さず、アンクルホールドを何度も決めて大差をつけた。「金城先輩は簡単に勝たせてくれないと思った」と不安な気持ちもあったようだが、会社の応援を味方につけて快勝した。
阿部は、2014年長崎国体で台風による特別措置で「ベスト8で国体優勝」という実績はあるものの、実質上の優勝は約4年ぶり。「やっと優勝できて、ホッとした。会社に恩返しできた」と、レスリングにかかる経費などもすべて負担してもらえる高待遇の会社に感謝の言葉を並べた。
会社では面識がない社員からも「頑張れよ」と声をかけてもらえることもあるようで、「本当にうれしいし、頑張る力になります。この調子で国体、全日本とタイトル取りたいです」とサコスの社名を胸に一層の活躍を誓った。