※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫) こん身の力を振り絞って入江ゆき(自衛隊)に挑んだ須崎優衣(JWA/東京・安部学院高)
高校2年生での優勝は、2011年に土性沙羅(現至学館大)が達成して以来。厳密には土性の方が若くなるが(土性=16歳6ヶ月、須崎=16歳10ヶ月)、全日本選抜選手権チャンピオンの最年少タイ記録となった。
須崎は昨年12月の全日本選手権決勝でも入江と対戦し、0-10のテクニカルフォール負け。「何もできずに負けた」という相手だった。だからこそ「思い切りいこう、やってやろう」と気持ちを強く持ち、入江の待つマットに上がった。
約5ヶ月ぶりの再戦では、言葉通りに積極的に仕掛けて入江を後手にまわらせ、リードを広げる理想的な展開。終盤に全日本チャンピオンの意地の反撃を食らったが、「守ったら負けると思ったので攻めた」と最後まで崩されずに試合終了のホイッスルを聞いた。
「前回は勝手に焦って崩されたところがあった。今回はとにかく落ち着いてやろうと思った」と語った16歳は、勝利が決まった瞬間、喜びのあまり大粒の涙を流して感情を爆発させた。
■試合前夜、吉村祥子コーチが真剣に相談を聞いてくれた
7歳の時、父・康弘さんが観戦していたレスリングのオリンピック中継を見て、「やってみたい」と思い、千葉県の松戸ジュニアでレスリングを始めた。着々と力をつけ、中学に進むとオリンピック金メダルを目指してJOCエリートアカデミー入り。世界選手権5度優勝の吉村祥子コーチの指導を受け、世界カデット選手権2連覇の快挙を達成した。 5ヶ月前の全日本選手権では、入江に手も足も出ずに敗れた(青が須崎)
次の目標は8月のインターハイ(広島)で、安部学院高が目標とする全階級制覇に貢献することだ。課題は「タックルで(やみくもに)飛びこんでしまうので、組み手からのタックル、近い距離からタックルなどを練習して、グラウンドやがぶりでもポイントが取れるようにしたい」とのことだが、これらはインターハイというよりも、すべて4年後の東京オリンピックを見据えての発言と言えるだろう。
リオデジャネイロ・オリンピック代表に内定している登坂絵莉(東新住建)が、その後も48kg級で闘うかどうかは分からないが、東京オリンピックで夢の金メダルを獲得するためには、ライバルたちとの厳しい代表レースを勝ち抜き、オリンピック出場のキップを手にしなければならない。
「今日から気持ちを切り替え、一日一日を大切にしてがんばりたい」と須崎。21歳で自国開催のオリンピックを迎える高校2年生の目は、どこまでも輝いていた。