※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=保高幸子)
今夏のロンドン五輪出場をかけた予選第2ステージ、アジア予選(3月30日~4月1日、カザフスタン・アスタナ)。男子グレコローマン55kg級は、ベテランとなった長谷川恒平(福一漁業=写真)が出場する。
この階級は2010年世界選手権で1位と2位を占めたイラン、韓国のほか、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンがまだ残っており、厳しい闘いとなることが予想される。「気をつけるのはイランと韓国ですね」と長谷川。
イランは昨年の世界選手権には出場しなかった世界選手権5度優勝(2005~07・09・10年)のハミッド・スーリヤンが出場してくる。韓国は10年世界選手権2位のチェ・ギュジンの出場が濃厚。スーリヤンには2010年アジア大会(中国)の準決勝で勝っているが、「レスリングは、やってみないと分からない」と慎重だ。
■スーリヤン(イラン)にローリングを決めたのは自分だけ
昨年の世界選手権(トルコ)では、2008年北京五輪2位で世界チャンピオンとなったロブシャン・バイラモフ(アゼルバイジャン)に3回戦で1-2で敗れ、五輪出場枠がかかった敗者復活戦2回戦ではピーター・モドス(ハンガリー)に1-2で敗れた。出場枠の獲得はならず、さらに言えば3度目の世界選手権でも思い通りの結果を残すことはできなかった。
昨年の世界選手権のバイラモフ戦。相手の技をこらえて押さえたはずの長谷川(青)だが、相手のポイントへ。
それでも、「自信はあるけど過信はしたくない」と言う。「4年前の五輪予選を経験しているので、五輪がかかった大会の怖さ、厳しさを知っているんです。カザフスタンに行く選手の中では、新庄先輩(寛和・自衛隊・グレコローマン120kg級)と僕しか(五輪予選を)経験していませんが、そんなに簡単に、勝てます、という大会ではない」と気を引き締める。
今冬のハンガリー合宿では、自信につながる収穫があった。2008年の五輪予選で負けたブガール・ラギモフ(ウクライナ)や2009年世界選手権で負けたヴァージル・マンテーヌ(ルーマニア)、昨年の世界選手権で負けたモドスと練習をともにし、今までは日本人にしか出さなかったテクニックも試した。相手の腕をとることができれば、投げもタックルも決まることが多いとわかったのは大きな発見だった。
いつもは減量を気にしながらの合宿も、「今回は試合を控えていなかったので、技を出せて、確認できたのが良かったです」と言う。
■昨年の世界2位に快勝する実力を披露
全日本合宿で練習する長谷川。左は元木コーチ。
昨年の世界選手権では、見合った試合が多くアタックが少なかった。その反省を、「結果にこだわって消極的になるより、思い切ってやる方がいいと思っています。相手がどうこうではなく、自分のスタイルを一番大事にします」と、今度の決戦に生かす腹積もりだ。
精密機械のように必ずポイントにつなげることができれば、必ずチャンスはくる。2010年アジア大会で世界チャンピオンを破って金メダルを獲得した実力の持ち主だ。長谷川は間違いなく世界のトップにいる。
やるべきことは全てやった。五輪予選の厳しさを知っていることも強みになる。全日本の元木康年コーチ(自衛隊)も「長谷川はきっとやってくれますよ」と太鼓判を押す。日本のエースはすべてを乗り越え、きっとこの第2ステージで五輪出場を決めてくれるだろう。