※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫) 五十嵐未帆(至学館大)
その一人が、昨年の世界ジュニア選手権(ブラジル)を制した五十嵐未帆(至学館大)。中学時代は全国大会でのメダル獲得は一度もなかったが、愛知・至学館高へ進んでから力つけ、2020年東京オリンピックへ向けての期待の星に成長した、
今月3日のジュニアクイーンズカップでは、昨年のJOC杯で苦杯を喫した加賀田葵夏(青山学院大)に8-2で雪辱して優勝。世界ジュニア選手権(8月30日~9月4日、フランス)の連覇へ向けて好スタートを切った。
世界ジュニア選手権は「去年勝ったのだから今年も勝ちたい、という気持ちは十分に持っています」と言う一方、昨年は外国選手とのパワーの差を感じ、「今年も絶対に勝てる、という状況ではありません。パワーとスタミナをつけて確実に勝てるレベルにまでもっていきたい」と、気をゆるめていない。 昨年8月の世界ジュニア選手権で優勝=チーム提供
昨年は2月にクリッパン女子国際大会(スウェーデン)、11月にゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)というシニアの国際大会も経験。シニア選手のパワーは、ジュニアとは格段に違うことを痛感した。
クリッパン女子国際大会の3回戦では、登坂の最大のライバルであるマリア・スタドニク(アゼルバイジャン)と対戦し、「タックルで攻めたつもりでしたが、何もできなかった。世界のすごさを感じました」と言う。ゴールデンGP決勝大会の準決勝では、昨年の世界選手権(米国)5位のバレンチナ・イスラモワ(ロシア)の力に負けて「脚もさわれなかった」。
スピードや技で対抗できるようにするとともに、やはり「パワーをつけていかなければならないと思います」との課題を見つけた。世界チャンピオンの登坂とは毎日練習し、世界一の実力はだれよりも実感として知っている。世界ジュニア選手権を制しても、その先のすごさを知っていることで、思い上がる気持ちは全くない。
■レスリング選手として理想的な体型…至学館大・栄和人監督 全日本合宿で練習する五十嵐
3年生の時の準決勝では、現在のライバルの一人であり、この大会のチャンピオンになった加賀田に2ピリオドとも0-6のテクニカルフォールで完敗(当時のルール)。この時期は、チャンピオンとかなりの実力差があった。
3度の全国大会でのメダル獲得はなかったが、「ここでやめるのは、どうかな…」と思い、至学館高へ進んで続ける道を選んだ。「正直なところ、至学館のすごさをよく知らなかったんです」と笑う。
栄和人監督(日本協会強化本部長)は、全国大会メダルなしの選手を取った理由を、「『どうしても至学館でやりたい』ということだったから」と前置きし、「リーチが長く、レスリング選手として理想的な体型だったから」と説明した。
■最高だった世界カデット選手権の表彰台
どんなに恋い焦がれ、理想的な体型を持っていようとも、練習で手心を加えてもらえるものではない。入学直後は、ご他聞にもれず「練習についていくのがやっとだった」-。それでも、ハイレベルの練習によって全国高校女子選手権やJOC杯カデットで優勝し、小学校5年生以来の全国チャンピオンを経験。2014年の世界カデット選手権(スロバキア)でも勝つまでに成長した。 転機となった2014年世界カデット選手権の優勝=チーム提供
今年の目標は、世界ジュニア選手権での連覇とともに、5月の明治杯全日本選抜選手権(27~29日、東京・代々木競技場第2体育館)での優勝だ。登坂の出場はないだろうから、昨年12月の全日本選手権で負けた入江ゆき(自衛隊)が大きな壁となろう。「うまさのある選手。それにつきあってしまって自分の動きができなくなってしまう」と実力差を感じている相手。「しっかり研究して臨みたい」と言う。
もちろん、加賀田もリベンジを狙ってくるだろうし、全日本選手権での対戦はなかったが2位に入った須崎優衣(JOCエリートアカデミー/東京・安部学院高)という勢いのある若手もいる。上だけを見ていると足元をすくわれかねない状況。ここを乗り越えなければ世界への飛躍はない。
栄監督は「タックルのスピードもタイミングも申し分ないが、攻める勇気が欠ける時がある。勇気をもって練習し、自分の持っているいいものをすべて出せるようにしてほしい」と望んだ。