※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
《上から続く》 (聞き手=樋口郁夫、朝日新聞記者/通訳=武田明子)
――現在、世界選手権とアジア選手権は3スタイル同時開催というきまりがあるため、イランは強豪国であり、レスリングに満員の観客が集まる国でありながら、10年以上、世界選手権もアジア選手権も開催されていません。これは世界のレスリング界にとって大きな損失だと思います。分離開催をUWWに求めているのでしょうか。
アジア選手権の表彰式でメダルを授与するパナヒーザデさん
パナヒーザデ「申請はしています。イランで世界選手権を開催するとしたら、女子は他国でやってもらうことになります。その場合は日本が最適の国だと思っています。ぜひとも日本が女子を引き受け、イランで世界選手権を開催させてください」
――今回のアジア選手権には、何の役目で来られたのでしょうか。
パナヒーザデ「私はUWWの女性委員会のメンバーです。国際大会に参加することで、女子レスリングの現状を見て、他国の女子選手や女性スタッフがどんなふうに活躍しているかを知り、今後に役立てるために参加しました。世界のレスリングを発展させるためには、女性の登用が欠かせません。有能な女性のコーチ、審判、協会役員は多くいると思います。その方たちを発掘し、コミュニケーションをとり、サポートしたいと思っています。イランでは協会の会長(ラスール・ハデム=1996年アトランタ・オリンピック金メダリスト)が私の活動に理解があり、派遣してくれています」
――ふだんは、どんな活動をやられていますか。
パナヒーザデ「アリシュとグラップリングの国内大会がスタートしましたので、その普及と広報に努めています。UWWはウェブサイトをつくり、You Tubeに動画をアップし、SNSを使って宣伝に努めるなど、あらゆる努力をしてくれていて、それに全面的に協力しています。先週はベラルーシで女子の合宿があり、3月末にはアリシュの大会があります。そうしたことの手配や国内のトーナメントの管轄などをやっています」
――国内に女子選手はどのくらいいるのでしょうか。
パナヒーザデ「正式にやっている選手となると、100人を超える程度だと思います。それでも、1年前の90パーセント増といったところです」
昨年の世界グラップリング選手権で銅メダルを獲得したイランの女子選手=提供・UWW
――アリシュとグラップリングも、目標はオリンピック入りでしょうか。
パナヒーザデ「もちろんです。1階級でも2階級でもオリンピックの種目となり、イランの女子レスラーが闘うことを夢見ています。アリシュはアジア・インドア大会で行われたこともあります(2009年ベトナム大会)」
――アリシュやグラップリングの振興に関し、なぜ日本を巻き込まないのでしょうか。日本は2013年ユニバーシアードで実施されたアリシュで優勝選手も輩出しています(76kg級に出場した阿部梨乃選手)。
パナヒーザデ「それはいい考えですね(笑)。今の段階では、トルコや中央アジアなど、アリシュやグラップリングが盛んな国とともに普及と発展を目指しています。日本の女子は(オリンピック・レスリングで)多くのメダリストを生んでいます。(同じレスリングなので)イランに来てくれて女子を指導してくれれば、選手のモチベーションはぐっと上がると思います。ぜひ日本のサポートがほしいところです」
――パナヒーザデさんの目標は、アリシュとグラップリングのオリンピック種目入りですか? 現在のオリンピック・スタイルへのイラン女性の参加は目指していませんか?
パナヒーザデ「そんなことはありません。時間はかかると思いますが、現在のオリンピック・レスリングへの参加を目指しています。日本の女子はメダルを量産していますが、時間はかかったと思います。イランの女子レスリングが確立するのは、もっと長い時間がかかるかもしれませんが、必ずその日がやってくると信じています」
――日本では31年前に女子レスリングがスタートしましたが、当時はレスリング界で相手にされませんでした。今の福田富昭会長が『女子レスリングを確立する』という信念のもとに努力を続け、今は日本を代表するスポーツに成長しました。
パナヒーザデ「イランもそうありたいと思っています。国際オリンピック委員会(IOC)が男女平等の理念を浸透させている今が一番いい機会だと思います。イラン女性のだれにでもチャンスがあるので、多くの女性に参加してほしいと思っています」