2016.02.23

【アジア選手権・特集】メダル「0」からの復活なるか? オリンピック予選まで、あと25日

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 2月17~21日にタイ・バンコクで行われたアジア選手権は、女子は世界チャンピオンの登坂絵莉(至学館大)の敗戦という“アクシデント”はあったものの、他のオリンピック代表内定の川井梨紗子と土性沙羅(至学館大)が優勝。他に2階級で決勝進出を果たし、日本の強さを十分に見せられた大会だった。

 しかし、男子は両スタイルでメダル「0」という惨敗。これは1981年にアジア選手権が始まってから初めてのこと。オリンピック予選にからまない大会とはいえ、外国が日本チームをこれまで以上に“弱小国”ととらえ、日本選手が相手というだけで絶対の自信を持ってマットに立たれてしまう可能性が出てきた。

 「一番手チームではなかった」という理由は成り立たない。他国も、ところどころで一番手と思える選手の参戦はあったものの、ベストメンバー参加ではなかった。

 日本のメンバー構成は14選手中9選手が学生で、将来を見据えた色合いが強いのは確かだが、全日本王者が3人、同2位としてオリンピック予選への出場権を獲得した選手が6人。加えて、昨年の世界選手権代表が4人(1人は別階級)いる中で結果が出なかった以上、一番手同士の闘いでも、同じ結果にならない保証はない、

 3月18~20日のオリンピック・アジア予選(カザフスタン)に出場する選手は、精神的優位を持った外国選手と闘わねばならない事態となった。

■パッシブを求める選手の姿勢に問題あり

 グレコローマンの馬渕賢司監督は「アジア予選に出る選手は、いっそう気を引き締めていかなければ同じ結果になってしまう。早めに対策をしたい」と気を引き締める。試合では、技をかけてポイントを取ろうとするより、「攻めてるよ。パッシブを取って」といった表情で審判を見ているシーンもあり、この姿勢の修正が課題のひとつだという。

 審判資格を持っている同監督の見解としては、テークダウンを取ってポイントを取ると、その後は、なかなかパッシブを課すことができないという。「技をかけて攻める」という意識に徹する必要を訴える。

 そうした意識以上に印象深かったのは、グラウンドの防御の弱さだ。13試合(2勝11敗)の中で、グラウンドの防御となったシーンは15回あった(パッシブかコーションによるパーテールポジションが13回、テークダウンを取られての防御が2回)。このうち、攻撃をしのいだのは、わずか5回。残り10回はポイントを取られており、総失点は48点。ローリングを4回転連続で受けたケースもあった。

■克服できるか、グラウンドの防御の弱さ

 2013年にルールが変わり、「スタンドを無難にしのいで、グラウンドで勝負」という闘い方から、「まずスタンドで攻勢をとらなければならない」に変わった。練習の比率は、おのずとスタンドの方が多くなった。

 さらに、カデットとジュニア(正確には、加えてU-23=現段階では欧州以外では行われていない)では、パッシブやコーションの際のパーテールポジションの選択がないので、シニア以上にスタンド練習の比率が高くなっているのが現実だ。

 だが、ここまでグラウンドの弱さを見せつけられると、この練習方法が間違いなのでは、という気もしてくる。馬渕監督は「正直言って、若い選手はグラウンドの練習の比率は少ないでしょう。しかし、23歳以下でシニアの大会に出る場合もある。日本代表になって、『グラウンドは弱いです』と言っても仕方ない。練習方法を変えていかなければならないかもしれない」と言う。

 そうした中で、アジア大会2位などの実績を持つ金久保武大(ALSOK)は、1試合だけだったが、2度のグラウンドをしっかりと守り切った。微妙な判定の末に敗れて(0-2)上位進出はならなかったが、負けの内容を評価するなら、一番評価できる負け方。こうした闘いの中でこそ、世界で勝つ端緒を見出せるような気がする。全日本コーチの今後の指導手腕に期待したい。

■リードしても守り切れない日本選手

 フリースタイルの井上謙二監督(自衛隊)は「メダルなしは本当に悔しい。鴨居(正和=65kg級)と北村(公平=74kg級)以外はこの種の大会には初参加で、キャリア的に劣っていたのは仕方ないが、結果は真摯に受け止めていきたい」と話し、今回の反省をもとに立て直しへの着手を口にする。

 技術的には、技を仕掛けながらポイントをつなげるまで持っていけなかったことが多く、詰めの甘さを指摘した。北村の敗者復活戦でのラスト2秒での逆転負けを引き合いに出し、「取るべきところで取っていないから、終了間際に逆転されてしまう」と話し、正確、かつどん欲なポイント獲得が今後の課題だ。

 逆転負けといえば、70kg級の多胡島伸佳(早大)のイラン相手の3位決定戦もそうだった。日本選手の最後としての試合。第1ピリオドの2分18秒の段階でスコアは5-1。日本のメダルなしの屈辱を救ってくれる期待が高まり、第2ピリオドの1分の段階でも7-4。しかし、最後は7-10で敗れた。

 57kg級の川野陽介(自衛隊)、65kg級の鴨居、97kg級の山本康稀(日大)も、一度はリードしながら、最終的に落とした試合があった。日本選手は決して攻めていないわけではない。ただ、リードした時の闘い方に課題のひとつがあることは間違いない。

■軽量級も一筋縄ではいきそうにないアジア予選

 オリンピック・アジア予選では、57kg級はアジアから4ヶ国がオリンピック出場枠を獲得済みという好条件。残る国の中で、キルギスとインドが敵と目されていた。

 今大会には、昨年の世界選手権で5位となって出場枠を獲得しているヨン・ハクジン(北朝鮮=2014年アジア大会優勝)が出場したが、国内2番手と思われたインド選手(注=1番手に勝ったとの情報あり)がヨンを破って優勝。キルギスもジュニアの選手が出てきて3位入賞だった。ともに2番手でこの強さなのだから、オリンピック予選は簡単な闘いにはならないだろう。

 70kg級では、ロシアの世界選手権代表だったアダム・バティロフ(31歳)が国籍をバーレーンに変えて出場し、ブランクをものともせずに優勝。オリンピック予選では65kg級に出場することが予想される。この階級の敵は、2014年アジア大会優勝の選手がいるインド、同2位の選手がいるタジギスタン、同3位の選手がいる中国だけではなくなった。

 “カザフスタン決戦”へ向けて、身が引き締まる思いが残ったアジア選手権。井上監督は「この大会での課題を今後の合宿で克服したい。(日本の)一番手は、今回の選手よりは絶対に上。微妙なルールもしっかり確認した。24日からの全日本合宿でしっかりと対策を練りたい」と、今回の惨敗を引きずることなくオリンピック予選に臨む気持ちを表した。

 決戦まで、あと1ヶ月を切った。日本チームは最後の追い込みにかける。