※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
スウェーデンへ遠征し、ゴールデンGP予選大会「クリッパン女子国際大会」出場と合宿をこなしていた女子中高生チームが2月23日、成田空港着のオランダ航空で帰国した。大会では、シニアでは「金2・銅1」。カデットでは「金4・銀1・銅2」を獲得した(右写真)。
島田寿男監督(富山・高岡商高教)は「カデットもシニアも、スウェーデンやロシアはかなりの選手が出ていた。その中でこれだけの成績。多くの選手が自分の力を出し切ってくれたと思う。日本女子の将来が楽しみです」と総括。
マットを降りた時の行動もしっかりしていたそうで、「今回の2人のコーチの指導のみならず、各所属の監督の指導のよさを感じました。遠征を通じていろんな面で成長してくれたと思います」と大会を振り返った。
■ゴールデンGP予選2連覇で自信をつけた川井
シニアの部で優勝した2選手は、ともに“殊勲”と言える優勝だった。51kg級の川井梨紗子(愛知・至学館高)は、1月のゴールデンGP予選大会「ヤリギン国際大会」(ロシア)に続く優勝で、9月に予定されている決勝大会への出場資格獲得が間違いないものとなった。59kg級は、昨年の世界選手権55kg級3位でスウェーデンを代表する選手のイダ・テレス・ネレルを破っての優勝だ。
シニアで金メダルを取った選手とコーチングスタッフ。左から清水真理子コーチ、島田寿男監督、川井梨紗子、坂野結衣、吉村祥子コーチ。
勝つことによって対戦相手から研究されるという事実も知った。大会は特別ルールで実施されており、準決勝と決勝は日をまたいでいたが、その一晩で決勝の相手が自分のスタイルを研究してきたことを感じた。タックルを警戒して低く構えられ、なかなか入っていけなかったそうだ。「そうした時にどう攻めるかが課題です。タックル以外でも、がぶってからポイントにつなげるいような技が必要だと感じました」と言う。
今年は、国内予選を勝ち抜いての世界選手権(9月、カナダ)への出場と優勝と、ゴールデンGP決勝大会優勝という大きな目標ができた。川井を金沢ジュニア・クラブ時代に教え、今回は審判員として同行した筒井昭好審判員(石川・金沢市立城南中教)は「海外で勝っても宮原を破らなければ日本代表になれない、という思いを持っているので、思い上がることはないでしょう」と話し、今年の世界選手権出場を期待した。
メダルを取った選手たち。前列左から向田真優、松元李恵、川井梨紗子、坂野結衣、木村安里、後列左から香山芳美、清水目優、北尚江、古市雅子
1階級下とはいえ、世界3位の選手を破って優勝した坂野は「正直なところ、まだ実感がわかないんです」と言う。しかし、 カデット部の優勝に比べると、「天と地ほどの差があります。うれしいです」と笑みを浮かべた。
イダ・テレス・ネレルは、昨年のこの大会の55kg級で村田夏南子が敗れた相手であり、ゴールデンGP決勝大会のチャンピオン。この大会の2週間前にあったダン・コロフ国際大会(ブルガリア)では59kg級で優勝した実力者だ。
「力があって、びっくりした。でも第1ピリオドの終わりごろ、ばてていて息が上がっていたので、行けるかな、と思った」そうだ。全日本合宿に参加させてもらうようになってから、強い選手が相手でも名前負けすることがなくなっていたそうで、こうした精神力の強化も優勝につながったのかもしれない。
しかし、この勝利で本当に自分の力が上とは思っていない。同級の五輪代表を争うソフィア・マットソン(2009年世界選手権51kg級優勝)と合宿でスパーリングしたが、「力もスピードもあって、とてもかなわない」と感じたからだ。合宿での練習では得意技を封じられた。川井とともに、優勝することによって研究される今後が本当の実力を試される時だ。
坂野は、川井と違って“世界選手権の出場と優勝”を口にすることはなく、「同学年に全日本チャンピオンが2人いて(51kg級=宮原優、67kg級=土性沙羅)、この優勝で少し近づけたかな、と思います。一歩一歩上がっていきたい」と話し、焦らずに全日本チャンピオンを目指す。
10日間の遠征を終えた選手たち
吉村祥子コーチ(エステティックTBC)は「目標として選手に課した『次につながる結果と内容』は達成できたと思う。でも、本当にこれからにつなげられるかどうかは、選手の今後にかかっている」と、さらなる努力を要望した。
スウェーデンのスポーツ界では、ネレルとマットソンの争いが、「サオリ・ヨシダに挑むのは、どちらか」と、かなりの注目を浴びているそうで、坂野がその1人のネレルを破ったことは大きな衝撃となったもよう。「ネレルはオリンピックのキップを失った」と報じた新聞があり、合宿では坂野とともに英国BBCのインタビューを受けたほど。そんな雰囲気の中で地元のスターを破った坂野を褒め称えた。
清水真理子コーチは「多くの方の努力で実行できている遠征。感謝の気持ちを忘れず、必ず役立ててほしい。ジュニアの選手がシニアの部で優勝できるのはすごいこと。負けた選手でも、攻めていて負けるなど内容はいい試合もあった。日本のジュニア選手には、世界で闘える力は十分にあると思う」と振り返った。