※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫) 優勝を決め、笑顔の山本泰輝(拓大)
山本は昨年、静岡・飛龍高のエースとして全国高校選抜大会、JOC杯ジュニア、インターハイ、全国高校グレコローマン選手権、国体の5冠を制し、拓大に進学した今年のJOC杯ジュニア120kg級で連覇を達成した最重量級のホープ。
将来を嘱望される19歳が、9月の世界選手権(米国・ラスベガス)で8位に入賞した荒木田に挑んだ。全日本合宿で荒木田の強さを熟知している山本は「ぶっちゃけ、かなわないと思っていた」と試合後に明かしたが、だからこそ「自分の持っているものをすべて出そう。最初からどんどん攻めよう」と心に決めてマットに上がった。
決意通り、山本は臆することなく積極的なレスリングを展開する。開始ほどなくして得意のタックルを立て続けに2本決めるなどして6-0とリード。しかし、「勝てるかもしれない。下手に攻めると取られる」と思い始めると、攻撃的だった姿勢が影をひそめ、徐々に荒木田にポイントを詰められていく。 準決勝で荒木田進謙(警視庁)と闘う山本
■大学で壁、全日本大学選手権は8位入賞も逃した
高校で5冠を獲得した逸材も、大学入学当初はちょっとした壁にぶつかった。「高校時代は組み手を意識しないでも、タックルに入れて、そこからローリングで勝つことができた」というが、対戦相手のレベルが上がると必勝パターンが簡単に通用しなくなる。全日本大学選手権では8位にも入賞できなかった。
大学では組み手対策に本格的に取り組み、以前に増してタックルの練習にも力を入れ、シニアで勝てる技術を身に着けた。
今年の世界選手権は、現地で合宿した2020ターゲット選手の一員として生で観戦。生で見た経験から「世界で勝つ人はみんな自分から攻めている」とあらためて認識し、高い意識で練習に重ねたことも今回の結果につながったと言えるだろう。
この優勝で、目標としていた東京オリンピックよりも1大会早く、リオデジャネイロの大舞台を狙う立場となった。表彰式のあと、海外の強豪相手に奮闘してきた荒木田から「世界は強いぞ」と声をかけられた。「自分からもっとタックルに入れるように練習して、メンタルを強くして世界で勝てるようにしていきたい」。
これから厳しいオリンピック予選が待っているが、19歳の新鋭は重量級の新たな歴史を作る覚悟だ。