※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) 木下貴輪が勝って団体優勝を手中にし、ホッと一安心の小幡邦彦コーチ
初日に57kg級の世界選手権代表の高橋侑希が危なげなく勝ち、65kg級のルーキー、藤波勇飛も優勝。2階級を制して最終日につなげたことで、5月の東日本学生リーグ戦の覇者、山梨学院大の優勝は堅いかと思われた。だが、小幡邦彦コーチをはじめ、山梨学院大の関係者は初日の結果に危機感を抱いていた。
小幡コーチは「高橋と藤波が優勝し、残りの2人は3位以内が目標。最低30点以上は確保したかった」という胸算用だったが、実際には29.5点。目標に及ばず折り返すことになり、「厳しい闘いになる」と覚悟したそうだ。
山梨学院大は、昨年も東日本学生リーグ戦を圧倒的な強さで制し、全日本大学選手権の優勝候補筆頭に挙げられていた。実際に、初日に6点差をつけて首位だったが、最終日に日大に逆転されて2位に終わった。小幡コーチは「うちのメンバーは、ぶっちぎって優勝できる力を持っている。今回も勝てなかったら(コーチの)責任問題ですよ」と自分自身にプレッシャーをかけていた。
第1日の予想外の出来事だったのが、97kg級の吉川祐介。2回戦で専大の主力である与那覇竜太に勝ったものの、その後の試合で右ひざのじん帯を負傷。準決勝、3位決定戦ともに、敗れて3・5点にとどまった。吉川のアクシデントで、小幡コーチは「試合は本当に何が起こるか分からない」と、今回も予想通りに試合が運べないことに頭を抱えていた。
■日体大の追撃を振り切った木下貴輪の優勝
最終日の山梨学院大の駒は、61kg級に全日本学生選手権(インカレ)2位のルーキー乙黒圭祐、70kg級にインカレ王者の木下貴輪、そして125kg級に最強の留学生、オレッグ・ボルチンを据えるなど4階級中3階級で優勝を狙える布陣だった。 瀬戸際の試合を勝ち、山梨学院大に優勝を引き寄せた木下
決勝を前にして、自力優勝の可能性があるのは山梨学院大だけ。木下とボルチンの2人が優勝すれば山梨学院大。そのどちらかが負けて、86kg級の松坂誠應(日体大)が優勝すれば、日体大が優勝という状況。分は山梨学院大にあるかと思われた。
しかし、木下の決勝の相手は、4月のJOC杯で負けている松尾侑亮(専大)。ボルチンの勝利は堅いので、先に行われる70kg級の木下の結果が、山梨学院大の優勝のかぎを握っていた。
高田裕司監督にも「おまえが負けたら(チームが)負けだ」と激を飛ばされ、気合を入れた木下は、第1ピリオド、第2ピリオドに1つずつアタックを決めて4-0で勝利。この時点で大学対抗得点の優勝を確信した小幡コーチは、主将の高橋と抱き合って喜びを爆発させた。
小幡コーチは「今回の僕のMVPは木下にあげたい。今回はまだ3番くらいの力かなと思っていたけど、高谷選手にも勝って、集中力を切らさずに優勝してくれた。自分が本格的に指導し始めて初めての二冠です。東日本リーグ戦は3連覇しているのに、去年も一昨年も(この大会は)優勝できなくて、やっと取れました」と、ホッとした表情を浮かべた。
チームの核となる主将の高橋が来年は抜けるが、「高橋以外の主力は全員残ります。来年はグランドスラムの3冠を狙っていきたいです」と力強く宣言した。