※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 85kg級で優勝した鶴巻宰(山形・自衛隊)だが、このあとは階級ダウンに挑戦
同門対決となった決勝戦。手の内を知り尽くしているからか拮抗(きっこう)した内容になったが、相手にパッシブを与えてグラウンドの攻撃権を得た鶴巻が豪快ながぶり返しを決めて2点。これが決勝点となった。
■仁川アジア大会の“完敗銀メダル”で闘志が沸く
70kg、80kg台に4階級が存在する男子グレコローマン。そのうち2階級は非オリンピック階級だ。昨年は80kg級でアジア2位の鶴巻も、今年6月の全日本選抜選手権ではオリンピック階級である85kg級に階級変更。9月20日に「オリンピックを目指す大学生以上の選手」に限定して行われた全日本チームの研究会にも参加し、リオデジャネイロを目指す意思表示をしていた。
実は、昨年の夏ごろ、鶴巻はアジア大会を最後に「引退する」という発言をしたことがあった。銀メダルを取り、引き際にふさわしい立派な成績だった。だが鶴巻にとっては悔しさだけが残った結果だったようだ。「アジア大会で優勝していたら、たぶん(満足して)引退していたでしょう。けれども決勝でボコボコにやられての2位。このまま終わりたくないという気持ちが大きかった」と、現役続行を決意した。
2004年に20歳で全日本選手権を制し、10年以上も中重量級グレコローマンの第1人者として闘い続けた。今回は北京、ロンドンに続く3度目のオリンピック挑戦となる。「来年32歳。今回が本当に最後の挑戦だと思っている」。若手のホープとして学生時代から注目を浴び続けた鶴巻も、今では3児の父親だ。「ずっと応援してきてくれた人たちのためにも、オリンピックにどうしても行きたい」。 決勝で値千金のがぶり返しを決めた
■階級を下げても厳しい道だが、「勝ちます!」
旧74kg級時代は減量苦に加えて、けが続き。2010年にはけがで世界選手権(ロシア)の出場を辞退したこともある。だが、今年の世界選手権をビデオで見て85kg級の現実を知った。「自分は85kg級の体を作り切れなかった。世界で勝つには、やはり75kg級しかない」。
再び減量苦と闘うことになるが、「以前は短いスパンで何度も74kgに落としていたから辛かった。今度は違う。全日本選手権、アジア予選、そしてオリンピックと3度だけ。これならできると確信が持てます」と自信をのぞかせた。
世界での活躍を見越して以前の階級に戻る決意をしたが、75kg級も激戦区に変わりはない。今年の世界選手権代表の金久保武大(ALSOK)を筆頭に、昨年の世界選手権5位の清水博之(自衛隊)、若手では昨年の学生二冠王者の阪部創(神大)や、その阪部を破って国体を制した屋比久翔平(日体大)などライバルは数知れない。
それでも鶴巻は力強く宣言した。「ひとりひとりに集中して、勝ちます!」と。