※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
2月16日から韓国・亀尾で行われるアジア選手権。女子は次代を背負う選手の派遣となり、51kg級に2010年ユース五輪優勝の宮原優、55kg級に2年連続で「ヤリギン国際大会」を2年連続で制した村田夏南子(ともにJOCアカデミー/東京・安部学院高)、67kg級でゴールデンGP決勝大会を含む国際大会3大会連続優勝の土性沙羅(愛知・至学館高)という国際舞台で実績のある高校生が出場する。
高校生はもう一人、48kg級の登坂絵莉(愛知・至学館高3年=右写真)がいる。昨年12月の全日本選手権で山本美憂(白寿生科学研究所)を破るなどして2位に躍進。それまでも全国高校女子選手権で2年連続優勝、昨年のアジア・ジュニア選手権(インドネシア)で優勝と実績はあったが、前記3選手に比べると、インパクトは今ひとつだった。
今回アジア・チャンピオンに輝き、“リデオジャネイロの星”に駆け上がりたいところ。「初めてのシニアの国際大会。不安はありますが、試合までの間に全力で練習して臨みたいと思います」と話し、激戦の“ポスト小原日登美”争いから一歩抜け出すことを狙う。
マスコミの注目の中で行われた山本戦に3-1、1-0で勝つ
全日本選手権は、2回戦で山本と対戦する組み合わせだった。しかし「3回戦まではいけると思っていました」と言う。登坂は1993年生まれで、山本が最初に世界一に輝いた時(1991年)は生まれておらず、その後の世界一(1994・95年)も記憶にない。「初期の女子レスリングを支えた強豪選手」と聞かされ、マスコミが騒ごうとも、しりごみする存在ではなかった。
マットで相対し、最初こそ威圧感を感じて「怖い」という気持ちが脳裏をよぎったという。すぐに「引退して復帰した選手に負けるわけにはいかない」という気持ちがまさり、攻撃することができて勝つことができた。
その次に闘うことになった桜井宏美(ランクアップ平野屋)の方が、きつい相手だと感じていた。練習ではまったく勝てない相手だし、「前の試合で希果先輩(志土地=51kg級世界選手権代表)を破っていました。希果先輩と私の実力差を考えれば、『厳しいな、勝てないだろうな』という気持ちでした」と言う。
しかし、減量のあるレスリングでは練習での実力差が試合にあてはまらない場合は少なくない。51kg級から五輪階級である48kg級に落としていた桜井は、明らかにばてがあったという。志土地との試合で力を使い果たしたのかもしれない。「組んでみると、『いけるかな』という気持ちになり、攻めたらポイントが取れた。いけると思いました」というから、勝負の世界は分からない。
■「見習いたい」という小原日登美の精神力
小原戦はポイントを取りながら、1-2、0-3で黒星
「日登美さんとは練習でもやったことがなく、その分、思い切っていきました」という気持ちが出たポイント。「それだけでも、すごいね」という問いには、「え~」という答えで、「勝てなかったのだから、すごくない」という表情がありあり。
小原とはパワーの違いを一番感じたそうで、「力をつけないと、シニアの世界では勝てません」と思う一方、スタミナもまだまだとみている。まずは体力アップだ。そして精神力。小原は1-1と追いつかれて残り時間が40数秒であっても(このままのスコアなら小原の負け)、まったく焦ることがなく、この精神力もチャンピオンになるために見習うべきことだと痛感したという。
■国体チャンピオンだった父の血が流れている!
父・修さんは富山・高岡一高時代の1980年に国体(栃木・足利市)のグレコローマン48kg級で優勝した選手。小学校3年の時に兄とともに高岡ジュニア教室に連れて行かれ、レスリングの魅力にとりつかれた。クラブの練習が週3回だったので、中学になると「毎日練習しないと勝てない」と思い、近くで毎日練習しているミヤハラ・ジム(宮原優選手のいたクラブ)へ移って厳しさを求めた(中学3年の時は高岡ジュニアも毎日の練習になり、復帰)。
全日本合宿でライバル、入江ゆきと闘う登坂
至学館の栄和人監督は、登坂を「組み手のバランスがいい。ここまでバランスのいい選手を見たのは久しぶり。(全日本選手権決勝は)日登美の力を出せない技術があった」と高評価。スタミナに難点が感じられ、「息が上がってからでもポイントを取れるようになれば、もう一段階アップする」と期待する。
同級は登坂以外にも、期待の若手が目白押しの状況。志土地がこの階級に慣れれば、さらに激戦が予想される。「みんなで競い合えばいい」と、激戦の中から全体の底上げと世界一の誕生を望んだ。まずアジア・チャンピオンに挑む登坂はどんな成績を残すか。