2012.02.09

長谷川恒平、松本隆太郎が欧州修行から帰国

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 トルコ~ハンガリーへの海外修業に行っていたグレコローマン全日本チャンピオンのうち、55kg級の長谷川恒平(福一漁業)と60kg級の松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)が2月8日、予定を終えて成田空港着のトルコ航空で帰国した。

 ともに1月28~29日にイスタンブールで行われたゴールデンGP予選大会「ベービ・エムレ国際大会」で銅メダルを獲得し、ハンガリーでルーマニア、ウクライナ、チェコ、スウェーデンなどが参加した約80人の合宿に参加した。

■長谷川、松本とも実戦+合宿で収穫あり

トルコの大会で銅メダルを獲得した松本(左)と長谷川

 長谷川は昨年の世界選手権2位のエルベク・タジエフ(ベラルーシ)を2度の一本背負いで破るなどして銅メダルを取った。「今回は勝ち負けより、練習でやってきたことを出せるかどうかの大会だった。いいところを出せ、いろんな国の選手を相手に5試合こなせ、いい遠征でした」と言う。

 負けたのはロシアの新鋭ミンギアン・セメノフで、先月のポッディブニー国際大会(ロシア)で2008年北京五輪王者のナジール・マンキエフ(ロシア)を破った選手。しかし「マンキエフの方が強い。今回は、リードして追加点を狙ったところを巻かれ、チャレンジでポイントを取られた試合」とのことで、「負けたという感じはしない。力の差はない」ときっぱり。

 その後のハンガリーの合宿では2008年北京五輪の予選で負けたウクライナ選手、2009年世界選手権で負けたルーマニア選手、昨年の世界選手権で負けたハンガリー選手がそろっており、“苦手”相手に十分にこなすことができたという。これまでの海外合宿は大会出場の前であることが多く、減量しながらのことが多かった。今回は練習に専念でき、いつも以上の内容をこなせたようだ。

 松本は大会の初戦で2009年世界選手権で負けたカザフスタン選手に勝利。「2009年は勝てる気がしなかった」という相手に、第1ピリオドを取られながらも第3ピリオドで盛り返すことができて自分の成長を感じた様子。試合数をこなすことができて、収穫のある銅メダルと振り返る。

 1点を取ったら後は攻めてこなくなる選手が多いという。今までのよりスタンド戦が30秒長くなる新ルール下では、「攻撃し続けられて、ばてさせてポイントを取りやすいと思う」との感触。相手がグラウンドの強い選手なら、「わざと1点をやってでも、(最後まで)スタンドで勝負した方がいいかな、とも思った」と、新ルールゆえの戦術も考えているようだ。

 ハンガリー合宿では、他国選手の迫力や必死さに刺激を受け、「あれだけやっているから強いんだろうな」と思ったそうだ。よく、日本人と欧米人とは生まれつきの肉体が違うと言われるが、「それだけじゃない。死にもの狂いでやっている。鬼のような、リンチのような練習です。斎川(哲克=96kg級)なんて、ぐちゃぐちゃにやられていましたよ」と話し、あの闘争心を見習う必要を感じたようだ。

■これまで以上に情報分析が必要な新ルール

 伊藤広道監督(自衛隊)は「ルールが変わってから初めての大会。自分のスタイルに合わせた闘い方をしてきている」と傾向を分析した。新ルールは、1分30秒の段階でどちらかがリードしていれば、グラウンドの攻防を行わず、そのまま試合が続く。0-0の場合は従来と同じで、グラウンドの攻防で再開。攻撃の選手が30秒間でポイントを取れなければ、守りの選手に1点が与えられ、そのピリオドを取る。

 スタンド戦の比率が多くなると考えられたが、グラウンド戦が得意な選手は、これまでと同じでスタンド戦では勝負せず、0-0としてグラウンド戦で勝負をかけてくるケースが多かったという。

トルコでのベービ・エムレ国際大会

 逆に、松本も話していたことだが、スタンド技が得意でスタミナにも自信があるが、グラウンド戦は苦手という選手は、開始早々にわざと1点を取られ、30秒長くなったスタンド戦で1点を狙う(1-1のラストポイントで勝ち)ことさえやってきたという。

 新ルール下では、1点を先制したからといって有利になったとは言い切れないようだ。相手がスタンド、グラウンドのどちらで勝負をかけてくるかなどの情報分析が今まで以上に必要になるかもしれない。

 試合開始を四つ組みでスタートするルールについては、「そのまま技をかけるケースはなかった。押しくらまんじゅうみたいになって離れるケースばかりだった」という。「組み合って勝負しなさい、という意図なのでしょうが…」と、ルール改正の目的をはかりかねるようだった。

 右四つで組むか左四つで組むかはお互いの呼吸のようで、厳密な規定はなし。けんか四つでスタートすることはないという。

 大会初日に闘った長谷川は「最初はみんな組み合っていたけど、午後のセッションになって慣れてくると、すぐに離れるんですよ」と笑う。審判もこのルールを忘れて開始のホイッスルを吹き、選手から「コンタクトするんだろ」とアピールされるケースもあったという。松本も「意味ないです。お互いにその体勢からポイントを狙う気持ちはないですから」と苦笑し、「なくなるんじゃいないですか」と予想した。

 ハンガリーの合宿では、15秒ごとに相手が変わるスパーリングを次々とやるなど、かなりハードな練習が展開された。特に重量級は「日本で同じ内容の練習をやろうとしても、それだけの選手がいない。いいマットワークがこなせた」と言う。

 気温はマイナス10度にもなる寒さ。1周8kmの湖があり、雪の積もる周囲を伊藤監督も一緒にランニングするなど、コーチングスタッフも一緒になって技術と体力を磨いたという。