※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美、撮影=矢吹建夫) 大泣きしたあとは、笑顔で撮影に応じた吉田沙保里(ALSOK)
決勝の相手は3年連続同じ相手。打倒吉田を掲げて研究をしてきたマットソンは、吉田が警戒していた通りだった。吉田は「強いと言うのは分かっていた。かなり研究されていて途中、負けるかと思った」と先に失点し、追う展開に。第2ピリオド、得意のタックルで2度、マットソンを場外に追いやって2-1としたが、終盤は相手の猛攻を凌ぎきっての辛勝だった。
優勝し、国旗を掲げて笹山秀雄コーチに肩車してもらってマットを一周すると、緊張が解けたかのように、顔をくしゃくしゃにして涙のオンパレード。インタビュー中も涙ながらに振り返るなど、重圧を背負っての世界選手権だった。
32歳――。吉田自身、年齢による体の変化を感じるときもあるのだろう。「若い子も強くなってきているし、負けたらどうしようって思う」と、最近は「年齢」について言及することが多くなった。
だが、闘い続ける理由は「勝ち続けたい」という強い意志があるからだ。「練習はいっぱいやってきた」と、年齢の不安を練習量で自信に変えてきた。内容よりも結果。勝ち続けることで頭がいっぱいだった吉田は、決勝進出を決め、メダルを確定すると、それによってリオデジャネイロ・オリンピック代表がほぼ決まることすら、眼中になかった。 激闘を終えてライバルと握手
マットソンとは2-1と辛勝だったが、準決勝までは“吉田ワールド”が全開。初戦や2回戦では両足タックルが面白いように決まった。3回戦では7歳年下の欧州チャンピオンを11-0で跳ね除け、昨年3位で不気味な存在だった準決勝の相手、ヨン・ミョンスク(北朝鮮)には一度もリードを許さず、女王の貫録を見せつけた。
5試合を勝ち抜いての優勝に今回、また新たな金字塔が加わった。個人戦200連勝という記録だ。「試合後に泣いたことは、今まで何回かありますけど、今回は本当に苦しかった。追われる立場はきつい。けど、その緊張感が楽しい」。若い選手を相手に勝つことだけに集中した結果で、新たな伝説を作り上げた。
もちろん、ここがゴールではない。「来年のリオに向けて気持ちを入れ替えなければいけない」。吉田が4度目のオリンピック制覇へ最終章の一年が始まった。