※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美、撮影=矢吹建夫) 初戦を勝った66kg級の泉武志(一宮グループ)だが、2回戦で敗退。
昨年までロンドン・オリンピック代表選手が中心だった日本グレコローマンチームは、今年の全日本選抜選手権で大幅な世代交代が行われた。リオデジャネイロを目指す布陣は、4人が初出場となり、ロンドン組が一人も残らないフレッシュな顔ぶれに。その中で最も注目されていたのが、フリーター生活を送りながら全日本選手権で“下剋上優勝”を成し遂げた、泉だった。
今春からは企業スポンサーがつき、めでたく“プロ選手”の仲間入り。ますます期待が高まっていた。7月のポーランド遠征や全日本合宿を経て、「課題だったグラウンドの守りもだいぶできるようになってきた」という仕上がり具合に、西口茂樹強化委員長(拓大教)が「泉も面白い存在」と話すほど、潜在能力は十分にあった。
夢を追うためにはフリーターをもいとわなかった泉の強い気持ちは、「緊張するどころか、会場の雰囲気を楽しむことができた」と、世界選手権の雰囲気にのまれることはなかった。だが、経験の浅さをカバーすることができず、2回戦のマテウス・ベルナテク(ポーランド)戦では試合運びで失敗。実力で決して劣ってない相手に、1点差で敗れた。
悔やみどころは2度あった。自信のあるスタンドからの攻撃で相手を攻めて場外ポイントで先制。すかさず追加点を狙いに再び相手を場外際に追い込み、浴びせ倒すように抑え込んだところを、相手がそりかえして泉の体が宙に浮いた。審判はベルナテクのそり技を有効として2点を挙げた。
日本のセコンドは、チャレンジを出さなかったが、泉本人が「自分の抑えが有効だと思った」と要求。ビデオチェックが行われたが、判定は覆ることなく、規定によって相手に1点が追加された。「冷静に考えると、相手の技だと受け止めるべきだった。あれがなければ楽に勝てていたかもしれない」。結果として、この1点が重くのしかかることになってしまった。
2つ目の失敗は、第2ピリオドの終盤にスタンドで攻めたてた泉がパッシブを奪って、グラウンドの選択権を得た時だ。「相手をばてさせてポイントを取ろう」と、そのままスタンドを選択してしまった。「負けていたのだから、グラウンドで(固く)ポイントを取るべきだった」と、絶好の攻撃ポイントでミス。試合展開に課題が残る負け方だった。
だが、経験は場数を踏めば自然と積むものだ。泉は「この結果は真摯に受け止め、課題のグラウンドからの攻撃と試合運びのレベルを上げたい」。泉のオリンピックへの挑戦は始まったばかりだ。