※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 沖永良部クラブ・大坪繁代表
鹿児島市から南西552kmほど離れた位置にある沖永良部島から毎年参加している、大坪繁代表率いる沖永良部クラブも、今回の台風12号の進路に冷や汗をかいたチームの一つだ。「1週間前から南方に白い雲がないか確認しました。毎回、神頼みです。ありがたいことに、12回連続で来られているから奇跡。今回の12号は本当にやばいと思っていました」。
8名の選手と関係者とともに無事に東京に到着し5泊6日の日程で滞在。結果は小学生3年生26kg級で松瀬佑次朗と、小学生6年生60kg級の原田優希がそれぞれ銅メダルを獲得した。
沖永良部島は人口約1万4000人の小さな島。今年6月に火山が噴火して全島避難となった口永良部島(くちのえらぶじま)と名前が似ているが、同島とは奄美大島をはさんで直線距離で500km近く離れている。口永良部島は本土よりで、沖永良部島は沖縄よりの位置だ。 台風を心配しつつ12年連続で出場を果たしたチーム
■遠征費用は10万円を超えるが、それだけのメリットを強調
当時の国士舘大は、超強豪チーム。1976年モントリオール・オリンピック金メダリストの伊達治一郎氏がコーチを務めており、朝倉利夫・現部長(1981年世界選手権金メダリスト)が先輩にいた時代。厳しい練習を積んだことは容易に想像できる。
卒業後は京都府での教員を経て、2003年に島に帰郷。同クラブを立ち上げた。「練習場は旧港の待合所。そこにマットをひいて、最初は、知り合いの子供を集めて、鬼ごっこと相撲から始めました」。
12年連続で東京の全国大会に出ているという噂は自然と広がり、運動能力が高い子供たちが自然と集まってくるようになった。「練習場の真横は海。時には砂浜を走らせたり、練習後に海で泳がせたり」と自然を使ったトレーニングは、島ならではの特権だ。 銅メダルを取った原田優希(左)と松瀬佑次朗選手(中央)
だが、東京まで子供料金でも10万円以上の旅費がかかるため、遠征を躊躇(ちゅうちょ)する家庭もある。大坪代表は「全国に行って見聞を広めることも大切。全国にも友達を作ってほしい。出費は大きいけれども、得るものも大きい」と参加を促し、毎年、選手を全国の舞台を経験させている。
東京遠征を経験すると、「世界で活躍できる人になりたい」と将来への目標を明確に定める子が多いそうだ。「目標はレスリングに限ったことではありません。勉強でも運動でも島という枠から、日本や世界に視野を向けられるようになるのです」。
大坪代表のレスリングを通した人間指導は効果てきめん。だが、レスリングでの結果にもこだわりを持っている。「過去に優勝した人は2人。その選手が3回ずつ優勝しました。また、優勝する選手を出したいですね」。大坪代表の挑戦はまだまだ続く―。