※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=保高幸子)
五輪で2度連続メダルを獲得している男子フリースタイル55kg級。2008年北京五輪で松永共広が銀メダルを取ったあと、世界選手権は2009年と2011年に湯元進一(自衛隊)、2010年に稲葉泰弘(警視庁=右写真)がそれぞれ出場した。
実力は拮抗(きっこう)している両者。世界のメダルを手にしたのは稲葉の方が先だったが、湯元は五輪前年の世界選手権(イスタンブール)に出場し、一歩リードと思われた。しかし五輪出場枠に手が届かず、勝負は全日本選手権に持ち越された。
どちらが勝っても世界に通用する55kg級だが、オリンピックに出場できるのは1人だけ。最後の関門のスタートとなった昨年12月の全日本選手権を制して五輪予選第2ステージ(アジア予選=3月30日~4月1日、カザフスタン)へ向かう権利を得たのは湯元だった。
■国際大会ですばらしい強さを見せてきたが…
湯元の後塵を拝した稲葉が振り返る。「2011年の世界選手権出場がかなわなかった時点で、湯元選手が枠を取っても取らなくても、これからの試合はすべて勝たないとならない、と思って天皇杯(全日本選手権)にかけてやってきました。調子は良かったし、体も動いていました」-。しかし、決勝で湯元に敗れ涙をのんだ。
2010年、初出場の世界選手権で銅メダル獲得
まだ五輪出場権が湯元にいくと決まったわけではない。とはいえ、稲葉に残された道は狭くて険しい。チャンスは、湯元がアジア予選で五輪出場枠をとれなかった場合に、第3次予選か最終予選のどちらかに出場できるかもしれない、というもの。カザフスタンで湯元が枠を獲ってしまえば、湯元の五輪出場が決まる。
稲葉は湯元の結果を待つことしかできず、しかも、まだ次の予選出場の確約があるわけではない。2月16日からのアジア選手(韓国)に出場することが決まっており、ここで結果や内容が悪ければ、予選への出場すらさせてもらえない可能性が出てくる。
■チャンスが巡ってきた時のために、手を抜かずに練習
中途半端な気持ちになってしまいそうな状況だが、モチベーションを下げてならないことは言うまでもない。湯元が出場枠を取れなかった後から必死に練習しても遅い。「少ないチャンスですが、そのチャンスが巡ってきた時にしっかりつかめるよう、準備しておきたい」と、練習に打ち込むまなざしは熱い。
わずかなチャンスにかけ、練習を続ける稲葉
フリースタイル55kg級で五輪出場枠を取っているアジアの国はイランとカザフスタン。枠を取ったイランのハッサン・ラヒミはアジア選手権に出場してくるという情報が伝わっている。ならば稲葉は底力を見せ、実力をアピールしたいところだ。
「アジア選手権は優勝しか狙っていない。天皇杯に向けてやってきたことをすべて出します」。アジア選手権で稲葉ここにありを示し、五輪へ続く道を切り開きたい。