2015.06.23

【全日本選抜選手権・特集】部員2人だけの国立大選手が殊勲…女子55kg級・木村安里(群馬大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)

 非オリンピック階級となったが、日本女子の“お家芸”でもある55kg級を制したのは、5月のアジア選手権(カタール)で優勝した群馬大3年生の木村安里。国立大学の選手が国内の頂点に立ったのは女子初で、長い歴史を持つ男子を含めても、1973年の全日本選手権グレコローマン48kg級で優勝した今野隆三(茨城大出身=優勝時は丸紅)以来の快挙だった。

 決勝は全日本選手権決勝の再現で、菅原ひかり(至学館大)が相手。「取られてもいいから思い切りいこうと思った」という木村は、思惑通りリードして終盤を迎えたが、ここから菅原の反撃にあって防戦一方。それでも、猛攻を何とかしのいで初優勝を引き寄せた。「初めての優勝で本当にうれしい」と喜びをかみしめながら、「最後に受けに回ったのは反省点」試合内容を冷静に分析した。

 トップ選手では珍しい国立大生ということで注目される。中学時代に全国大会2位、群馬・西邑楽高時代はインターハイ3位の成績を残した。強豪大学に進学する話もなくはなかったが、周囲の勧めや教員志望ということもあり、一緒に練習をしたこともある群馬大を選択。教育学部の門をたたいた。

 現在、群馬大のレスリング部員は2人だけで、もう一人は男子選手。分かっていたとはいえ、やはり厳しい環境だ。それでも、時間の関係でOBが参加してくれる朝練習でスパーリングなどの実戦練習を積み、午後の練習をトレーニングにあてるなど、練習に工夫を凝らしてハンディの克服に努めた。

 春からは「精神的に弱い」という理由で、スポーツ心理学の研究室に入り、メンタルの強化に取り組んだ。これも好結果を生みだす要因だったことだろう。

 前に出て圧力をかけ、相手に思うような動きをさせないのが理想のレスリング。まだ世界選手権への出場は決まっていないが、世界の舞台に立つことになっても心の準備はできている。「無名大学(の選手)なのでプレッシャーはない。世界選手権に出場したら優勝できるようにがんばります」。世界の舞台でも思い切り前に出るつもりだ。