※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫) 日体大進学後、初のタイトルを獲得した澤田夢有人
静岡・飛龍高時代に全国高校生グレコローマン選手権と国体で優勝していながら、日体大に進学して最初の1年間は優勝どころか3位入賞もなかった。澤田は「1年間、まったく結果を出せなかったので、うれしい、という言葉しかありません」と、初のタイトル獲得にうれしさを隠せない。「自分の得意なパターンのローリングでポイントを取り切ることができました。高校時代からローリングでポイントを取るのが主でした」と勝因を振り返った。
その頂たる試合が、準決勝の山本戦だろう。第1ピリオド、先にコーション(警告)を取られてパーテールポジションの防御をしいられるなどスタンド戦では押され気味。「スタンドの押す力はすごかったですね」。しかし、この攻撃をしのぎ、逆に自分がグラウンドの攻撃権を取ると、わき腹を強烈にロックしたローリングを連続で4回転。一気に8-0として試合を決めた。
マットはTVカメラを含め多くの報道陣が取り囲んでいた。視線の先はもちろん山本。「あんなムードの中での試合は初めて。完全アウエーの状態でした」。山本は前の試合で日体大の選手を3-0で退けており、そのこともとプレッシャーとなったが、「絶対に自分が勝たないとならない。日体大のグレコローマンの強さを見せてやる」と、気持ちを奮い立たせてのマットだった。
ローリングは、昔は苦手な技だったという。しかし、高校時代のNTS(全国トレーニング・システム)の東海北信越ブロック合宿で、講師として来た2012年ロンドン・オリンピック代表の長谷川恒平(現青山学院大職)に指導を受け、教えられたことを所属に持ち帰って反復練習するうちに得意技となったという。「長谷川さんには本当に感謝しています」。 準決勝の“ローリング地獄”に続き、決勝では豪快なバック投げが爆発
■プレッシャーだった2020年ターゲット選手の指名
2020年東京オリンピックのターゲット選手に選ばれている。これがモチベーションとなって今回の飛躍につながったと推測されるが、そうではなく、「結果も残せていないのに選ばれて、プレッシャーだったんです」とのこと。今回の優勝で「ホッとしました」と苦笑いし、安どの表情を浮かべた。
プレッシャーもモチベーションのひとつ。それがあったからこそ今回の飛躍につながった。ターゲット選手として昨秋のウズベキスタン合宿に参加できたことも大きかった。「ヨーロッパの選手と練習する機会はそうそうあるものじゃない。日本にいては体験できないことができ、刺激になりました」と話し、やはりターゲット選手へ選ばれたことが飛躍につながっている。
表彰式のあと山本に駆け寄られ、「リベンジさせてください」と頭を下げられた。にっこり笑って握手を返した澤田だが、もちろん、これは“社交辞令”の笑顔。「次に闘っても負けません」と言い切り、チャンピオンの座を譲る気持ちはない。「世界ジュニア選手権(8月、ブラジル)までにしっかり練習を積み、世界で通用するレスリングを身につけたい」と、ワンランクアップのレスリングを目指す。
その前の6月には全日本選抜選手権へ推薦される可能性があり、全日本トップレベルへの挑戦もある。毎日練習している全日本王者の泉武志(一宮グループ)らトップ選手との実力差はまだ大きいと感じているが、「闘う機会があれば、少しでも互角近くに渡り合いたい」と気持ちは盛り上がっている。
無冠だった2020年ターゲット選手が、タイトル獲得を経て世界へ飛躍する。