※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) 優勝まであと数秒、立ち上がって時計を指さす京都八幡・浅井努監督
昨年優勝で、高校レスリング界の雄・霞ヶ浦が予選を勝ち抜けず不在となった今大会。本命不在の大会となった。その中でも、霞ヶ浦を破って出場資格を得た埼玉栄や、昨年の夏の王者・花咲徳栄の下馬評は高いものだった。
浅井努監督は「協会ホームページの展望記事は、関東のチームが注目されていました。近畿1位の京都八幡も可能性があるぞ、っていう気持ちで、関東のチームに勝つために練習してきました」と、展望記事の内容が刺激になったことを打ち明けた。
埼玉栄、花咲徳栄のチームがいずれも中量級、重量級にポイントゲッターがいるのに対して、京都八幡は50kg級の谷山拓磨、55kg級の早山竜太郎、60kg級の志賀晃次郎の3階級を絶対に勝ち、残り4階級で1勝を目指すチーム。関東の強豪と逆だった。準々決勝も、決勝も、先手必勝とばかりに3連勝して流れをつかんで勝利をものにした。浅井監督は「軽量級でリードして勝つ形が実行できてよかった」と、京都八幡らしさ全開の優勝に満足気だった。 優勝を決め、沸き立つ京都八幡陣営
浅井監督が「鉄板選手」と指名した軽量級3選手のうち、2選手は新2年生。中でも浅井監督が「MVPの活躍をした」と褒め称えたのが、一昨年の全国中学選抜選手権優勝の60kg級の志賀だった。
埼玉栄戦では、55kg級でインターハイ2位の実績を持つ吉村拓海に第1ピリオドで6-0の大量リードを奪い、そのまま逃げ切り。花咲徳栄戦では、同じく主力選手の逆井琉偉に志賀が勝ったことで京都八幡の流れになった。
浅井監督は「決勝戦のポイントは志賀だと、みんなが分かっていました。志賀と逆井選手は、けんか四つになるので、最初は様子を見てもいい、飛び込みタックルだけ気をつけろ、と指示していました」と振り返る。浅井監督の指示通り、志賀は前半は無理にしかけずにディフェンスに徹する方が多かった。だが、第2ピリオドの中盤に、タックルからのローリング攻撃が決まって4-1と逆転。終了のブザーが鳴ると、志賀はセコンドに向かって拳を突き上げた。
決勝も勝つべき3人が勝利したが、浅井監督は「勝ったとはまったく思わなかった。最後のブザーがなるまで勝負はわからないから」と安心できなかったという。66kg級、74kg級と星を落として、3-2と追い上げられて84kg級の脇田俊之に出番が回った時、「ここで取らないと優勝はない」と確信した。なぜなら、花咲徳栄の120kg級は、昨年インターハイのMVPに輝いた石黒峻士だからだ。
自分が勝負どころと分かっている脇田は動きが硬く、途中で逆転されるシーンもあったが、後半にバックポイントを奪って3-1と再リード。そのままのスコアで振り切ってチームの4勝目を挙げて、優勝を決めた。
■次の目標は7年前に達成できなかった春夏連覇 殊勲の活躍だった60kg級の志賀晃次郎(青)
「今日だけは優勝に浸る」と話した直後、浅井監督の表情が変わった。「7年前は春夏連覇を狙ったが、夏のインターハイは準決勝で敗れてしまった。今回こそ、夏も勝ちに行きたい」。インターハイはどのチームも1年生が加わり、中には中学王者のような即戦力の選手もいる。京都八幡は現時点で即戦力の入部は期待できず、夏も現有戦力で闘うことになりそうだ。
「このチームを底上げするしかないです。インターハイは地元京都での開催。何としても春夏連覇します」。優勝胴上げで7年ぶりに宙に舞った浅井監督。夏の舞鶴でも、“舞う”ことができるか―。