2011.12.31

【全日本選手権・特集】復活優勝! 五輪出場権奪取へかける…男子フリースタイル60kg級・前田翔吾

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)

 悲願の復活優勝だ! 天皇杯全日本選手権の男子フリースタイル60㎏級は2009年世界選手権5位の前田翔吾(ニューギン)が3年ぶり2度目の優勝を飾り、来年のロンドン五輪への望みをつないだ。

■アジア大会銀メダリストを2-0で撃破

3年ぶりの優勝を決め、雄たけびをあげる前田

 今年の9月の世界選手権で湯元健一(ALSOK)が銅メダルを獲得。ロンドン五輪の出場枠を獲得し、今大会で湯元が優勝を決めれば代表に決定という状況。前田にとっては、優勝し、かつその後のプレーオフも含めて湯元に3連勝が必須条件と、ロンドンへの道のりは他の階級より厳しいものになっていた。

 前田と湯元の練習拠点はともに日体大。前田は世界3位のレベルを実感しており、「湯元先輩に3連勝というより、優勝することを目標にする」と、自分自身の力を発揮することをまず目標としていた。

 初戦は、11月の全日本大学選手権で1年生王者に輝いた池田智(日大)で、2-1とてこずってしまったが、2回戦からはギアをしっかり入れ替え、荻原健汰(専大)にストレートで快勝。昨年のアジア大会銀メダルの小田裕之(国士舘大ク)との準決勝も無失点のストレート勝ち。第2ピリオドはローリングほかのグラウンド技の連続によるテクニカルフォールで下した。

■決勝は苦手意識のある石田智嗣に勝つ

 決勝には、石田智嗣(早大)が準決勝で高塚紀行(自衛隊)を下して勝ち上がってきた。前田は4月の全日本選抜選手権では、準優勝した石田に前田は初戦で敗れている。大学2年生の時の2007年にも、世界ジュニア選手権をかけたJOCジュニアオリンピックで、当時高校生だった石田に負けたことがあり、苦手意識がある選手だった。

 第1ピリオド、互いにフェイントをかけあい、静かな立ち上がりとなったが、ラスト30秒を切ったところで、石田が左タックル。そこをカウンターで前田がバックポイントを奪って1-0。第2ピリオドは、優勢となった延長戦を制してストレートでの優勝となったが、内容は常に前田が前に出て石田へプレッシャーをかけていた一戦だった。

 「クリンチになったけど、自分が攻めていたから、(ピリオドスコア1-1になっても)第3ピリオドでも勝つ自信があった」と前田。以前は、一つでも歯車が狂うとそこから崩れることが多かったが、想定外なことが起こってもプラス思考で前向きに試合を取り組めるようになった。

アジア大会銀を撃破した前田(青)。残る標的は世界3位の湯元だけ?

■五輪出場のためには、打倒湯元が必要条件!

 五輪出場枠を獲得した湯元は、初戦で分の悪い小田裕之(国士舘ク)に敗れ、強化委員会が定めた五輪代表の獲得ポイントは2ポイントのまま。今大会、前田が優勝したことで1ポイントを獲得し、ロンドン五輪への希望をつないだ。

 前田の精神面を高ぶらせたのは、試合前の関係者からの電話だった。「ほとんどが、『湯元先輩が勝つだろうから、お前は次(の五輪)を頑張れ』という内容のものだった。僕は、まだロンドン五輪を諦めていないので、その空気を払しょくしたかった」。

 世界5位の栄光から一転、全日本選手権ほかすべての大会の出場停止という事態に遭遇。復帰後は長期のスランプに陥ったが、それを乗り越えて3年ぶりに日本一に返り咲いた前田。出場停止の件に話が及ぶと、「オリンピックに出て、金メダルを取るまで答えは出ないです」と返答。

 さらに、復活優勝についても安堵の表情を見せることはなく、「まだまだ、これから」とすぐに、来春のプレーオフに向けて気持ちを切り替えていた。確かに、今大会は湯元との直接対決を制しての優勝ではない。五輪代表条件となる3ポイントを満たすためには、必ず湯元を倒さねばならない状況がやってくる。

 「湯元先輩と切磋琢磨して、次はお互いに万全のコンディションで闘いたい」-。ロンドン五輪の切符は、湯元が死守するか-、それとも前田が奪い取るのか-。