※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫) 全日本初優勝を決め、にっこりの栄希和(至学館大)
全日本選手権の女子60kg級で優勝した栄希和(至学館大)。父は周知のように栄和人・日本協会強化委員長で、母は現在、兵庫・芦屋学園中で指導する坂本涼子さん。父は全日本で6回の優勝、母は全日本女子選手権で8回の優勝を誇る。父子鷹だけでなく、母子鷹でもある。
希和の成長には同門の存在があった。世界選手権女子48kg級で2連覇中の登坂絵莉の存在だ。同級生の登坂とは普通の仲良しというだけでなく、見習うべき部分が多い。誰もが口を揃えて“練習の虫”と言うのだから、登坂の練習量は想像を超えるものがある。
「絵莉についていけば、自分も強くなる。そう自分に言い聞かせて一生懸命練習しました」(希和)。その練習の成果は着実に出てきた。今年、全日本選抜選手権は5位にとどまったが、世界ジュニア選手権(クロアチア)では63kg級で3位。8月の全日本学生選手権でも同級で優勝し、自信が芽生えてきた。
その自信からくるものなのだろう。いままでは厳しいと思っていた練習が、「楽しくなってきた」という。今大会の決勝は同門の先輩からの勝利だった。 伊藤彩香(赤)決勝戦は激しい攻防となった
野杁は希和が優勝した21日、仙台市で初開催されたキックボクシングのイベント「Krush」のリングで1R、KO勝利を飾っている。その野杁が希和の初優勝を聞き、「うれしかったですね、同級生の活躍は自分も励みになります」と祝福した。
父子鷹のケースはさまざまだ。父が偉大すぎるあまり、プレッシャーとなって伸び悩むタイプもいる。冒頭に触れた長島、野村の子がそのケースにあてはまる。だが、希和は“父母子鷹”である。DNAは父子鷹よりも強烈。「お父さんに娘として恥じない試合ができた」と語るほどで、プレッシャーをはねのけるタイプといえるのではないだろうか。
練習仲間には世界王者・登坂がいる。もう少し上を見上げると、絶対王者・吉田沙保里がいる。この恵まれた環境で折れない心をつかめば、オリンピックへの扉は開かれるはずだ。
まずは、試合後に公言した通り、来年の世界選手権(米国)60kg級制覇だ。