2011.12.25

【全日本選手権・特集】優勝回数より、ロンドン五輪…女子72kg級・浜口京子

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫)

 「記録とは破るためにある」-。その一方では、「破られるためにある」。当時、自衛隊に所属していたグレコローマンスタイルの森山泰年が1982年から1995年まで、日本レスリング界前人未到の大会14連覇を飾った(82~84年までは82kg級、85~95年までが90kg級)。

 昨年の天皇杯全日本選手権で森山の記録に並んだ女子72kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ)は、今年の大会でこの記録を破ることが期待された。しかも女子での記録更新である。“快挙”どころの話ではない金字塔を打ち立てることとなる。

■優勝回数より、ロンドン五輪への思い

井上に先制されて苦戦した浜口だが、最後は勝利

 ところが、浜口は昨年も「優勝回数を数えたこともない」と語っていた。今年も大会に臨むにあたって、優勝回数の更新などは考えてもいなかった! いや、余計なことは考えたくもない、というのが本音の部分だろう。浜口にとって照準はロンドン五輪でしかないからだ。今回の全日本選手権で優勝して「歴代記録を塗り替えたい」ではなく、「優勝して最終予選に備える」のが目的だ。

 五輪の最終予選がかかっているとあって、67kg級で闘っていた選手、または実績のある選手が「打倒浜口」を誓って臨んできた。女王・浜口にとっては包囲網を敷かれたといっても決して言い過ぎではないだろう。

 浜口の初戦の相手は、今年の世界選手権で銅メダルを獲得している井上佳子(クリナップ)。井上は「タックルに入れば、がぶりがうまいのは分かっているから、タックルに入るつもりはなかった」と試合後に語ったが、この浜口対策は決して間違いではなかった。バックに回って1ポイントを先制したのも井上。

 ところが、ここから浜口が経験の差を見せつける。井上を場外へ押しやり。1-1のラストポイントで第1ピリオドを取り、第2ピリオドも2-0で制して決勝進出を決めた。井上は「大きな舞台を何度も経験しているだけに、試合運びがうまかった」と井上は語った。

■大好きなレスリングを続けて、ロンドンへ

 決勝は2008年の世界選手権67kg級で銀メダルを獲得している新海真美(アイシン・エイダブリュ)だ。浜口は地元・浅草大応援団の声援をバックにアドレナリンが絶好調に達しているかのように自分から動いた。相手のタックルを切ってバックも奪い、3-0で第1ピリオドを取ると、第2ピリオドも押し出しで1-0と取って、15度目の全日本選手権を制した。

 新海は「相手を見すぎました。もっと仕掛けたかったけど、できなかった。決勝までくると1点というのが大事なので、ちゅうちょしてしまった自分が悔しい」と唇を噛んだ。

 井上も新海も67kg級の世界選手権メダリスト。しかし浜口は世界選手権では金メダルを獲得している。オリンピックには2度出場し、2度とも銅メダルを獲得している。2人とは経験値ではまだ差があるのは確かだった。

 それだけでなく、この日の浜口は近年の中でも特に動きが良かった。「大好きなレスリングを続けてロンドン五輪に出場したい」。その意思を強く持っている限り、浜口は立ち止まってはいられない。