2014.11.04

【マスターズ講習会・特集】C型肝炎を克服し、78歳で全日本マスターズ選手権初参加を目指す青木巧さん(埼玉・山中道場)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=樋口郁夫)

 11月1~2日に東京・味の素トレーニングセンターで行われたマスターズの講習会には、70歳を超える選手が2人参加した。1人は今村房雄さん(70歳=千葉・柏クラブ)。全日本マスターズ選手権の常連なので驚くことではないが、78歳で参加したのが埼玉県加須市在住の青木巧さん(フリー)。C型肝炎で長く闘病生活をおくっていたが、開発された新薬によって完治し、数週間前からレスリングを始めた“ビギナー”だ。

 「C型肝炎が完治し、体力が戻ってきたつもりでしたが、やっぱり体が動きませんね。(来年1月の)全日本マスターズ選手権はちょっと無理かな…」と弱気の言葉を口にする一方、「1年間、しっかりやれば何とかできるかな、という気持ちもあります」と、希望も口にする。

 まったくの初心者ではなく、1964年の東京オリンピックを3年後くらいに控えたころ、全日本チームの常設練習場・青山レスリング会館で活動していた社会人チーム「東京レスリング倶楽部」で2年ほどレスリングをやったことがあった。

 「相撲が好きでしたが、体が小さかったので、階級制のレスリングなら、と思ってやってみました」と言う。時に日本代表選手からも練習の相手をしてもらい、全日本社会人選手権に出場したこともあるという。

 その後、C肝炎が発症した。この病気は必ずしも死に直結するものではないが、体のだるさなどがあり、放置すると10~30年をかけて肝硬変や肝がんに進行する可能性のある病気だ。青木さんも40数年間にわたって注射を打ち続けるなど病気との闘いを余儀なくされた。しかし、医学の進歩もあって克服。「体力が戻ってきて、何かをやりたくなって…」と、“昔取った杵柄(きねづか)”でレスリングへ戻ってきた。

 当時と違ってマスターズレスリングがあることを知り、いろんなところに問い合わせたが、近くにマスターズ選手が練習できるクラブはなかった。埼玉県では唯一、入間市にあるはんのう山中道場が受け入れていることが分かった。加須市からだと車で片道2時間かかる。大変だが、「他にできることころがないので、通い続けてみようと思います」と決心した。

 今回の講習会では、今村さんと打ち込みをやることが多かった。同じ70代だが、「私と違って、ずっとやっている人ですからね…」と話し、ちょっときつそうな表情。それでも、「1年かければ何とかなるでしょう」という言葉を繰り返し、前を見据えた。

 全日本マスターズ選手権の最高齢出場は、2013年の米盛勝義さんの「88歳」。青木さんの元気さなら、その更新も不可能ではいだろう。