※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 高校最後の大会で全国一に輝いた高橋和希(静岡・飛龍)
決勝の序盤は競った試合だったが、後半、高橋がくぐりから相手のバックを奪ってテークダウン。4点を奪って逆転した。優勝を決めた瞬間、両手をあげてガッツポーズ。思わずセコンドの井村監督に飛びついた。
「優勝して本当にうれしかったし、先生もマットに上がってきたので飛びついてしまった。そんなことしたのは初めてです」。飛龍高のレギュラーになれなかった伏兵が国体を制した快挙に、師弟ともに喜びを爆発させた。
努力の結晶が優勝をもたらした。高橋は5歳から地元の沼津クラブでレスリングを始め、競技歴13年目。だが、「中学、高校を通して、全国大会の表彰台はありません。インターハイでも団体戦で1度出してもらいましたが、個人戦では県1位になれず、出られませんでした」と、結果が出ていなかった。
「つらい時もたくさんあってくじけそうになった」(高橋)という3年間。それを支えたのは、昨年の主将だった澤田夢有人先輩(全国高校生グレコローマン選手権王者=現日体大)だった。「夢有人先輩は厳しい先輩だったけど、僕を応援し、面倒を見てくれた。その指導のおかげで力をつけられた」。努力に努力を重ね、8月の全国高校グレコローマン選手権で3位に入賞。これで、国体のシード選手として出場する道がひらけた。
優勝した高橋は井村陽三監督に抱きついた
国体の最初に行われたフリースタイルでは、同期の山本泰輝が史上6人目となる高校五冠王を達成。「自分も頑張ろう」と勇気もらってマットに立ったが、全国優勝が当たり前の山本と違って、初の全国舞台に立つ高橋は、想像以上の緊張感に襲われた。
「競った試合が多かったけど、セコンドの井村先生の声だけは、はっきりと聞こえました。その通りに動いたら勝てました。先生に感謝しています」。
高橋は井村先生に飛びついた後は、監督に向かって一礼。さらに、マット上で各方面に、何度も深々と礼をしていた。「今日で、レスリングを辞める予定なので、これまで応援してくれた人たちや親にお礼の意味であいさつしたかった」と、マット上で感謝の気持ちを表した。
卒業後は就職する方向で考えている。「高校3年間、レギュラーにもなれなかったし、インターハイにも(個人戦は)出られなかったけど、国体で優勝できました。井村先生には努力賞だって言ってもらえました」。
努力すれば必ず報われる―。高橋が、レスリング人生最後の大会で初めての表彰台の頂点に立った。