※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
アジア大会4個目の金メダルを見せる吉田沙保里(ALSOK)
結果だけ見れば、いつも通り表彰台の真ん中に吉田の姿があったが、内容は冷や汗ものだった。アジア選手権53kg級優勝の鐘雪純(中国)との初戦で、小内刈りから外無双の連続攻撃で4失点。そこから一気にフォールの体勢にまでもっていかれた。「正直ヤバい、終わったかなと思った」と、女王吉田も観念するほどの大ピンチだった。
だが、前日は後輩の登坂絵莉(至学館大)と渡利璃穏(アイシン・エィ・ダブリュ)がそろって優勝。2人とも世界選手権に出場し、試合間隔がわずか2週間という短期間で再調整しての栄冠だった。「後輩が頑張っていたのに、先輩が1回戦でフォールされるのを見せてしまったら、後輩のためにならない」と、諦めない力が沸いてきて逆転劇につなげた。
鐘雪純とは3月に東京で行われたワールドカップで対戦し、吉田がテクニカルフォールを収めている相手。父・栄勝さんを亡くした直後、練習不足の状態でも圧勝したことで、「強いのは分かっていたけど、油断してしまった」と吐露した。 優勝後は恒例のパフォーマンス
今大会の女子は4選手中3選手が世界選手権とアジア大会の代表となった。前日に登坂がシングレット色を間違えてマットに上がり、渡利がパスポートを忘れて自宅を出るなど、2週間スパンのリミット計量は各選手にフィジカル面、メンタル面ともに、大きな負担となった。
吉田に減量はなかったものの、吉田だけ世界選手権と階級が異なり、世界選手権の53kgから増量しなければならない状態だった。「体重は増えなかった」と、計量は53kg代でパスしたことも苦戦した要因となった。
だが、栄和人強化委員長はこうした状況にも吉田に同情しなかった。「一ヶ月に2大会出場は、自分が決めたことだろ」と厳しい言葉で吉田を奮い立たせ、吉田も「アジア大会は4年に1度しか出られない大会。責任感があった」と、2回戦から初戦の失敗を帳消しにするかのような圧倒的な勝利で優勝を決めた。
これで個人戦の連勝記録も「188」まで伸びて、来年には200の大台も見えてきた。吉田は「リオ・オリンピックに向けていい大会になったかな」と最後は笑顔。2年後のリオ・オリンピックでも4連覇を目指す吉田は、アジア大会で苦労した4連覇を糧にして、さらに進化を続ける―。