※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
本格的なグレコローマンのキャリア1年半で学生王者についた宮城辰司(日体大)
「うれしい」と口を開いた宮城は、「と言いたいところなんですけど、最後が同門対決だったので、ちょっと複雑な気持ちです。仲のいい選手なので…」と苦笑い。初めて経験する全国レベルの大会の表彰台の頂点に上った感想も、「柄じゃないなあ、不自然だなあ、といった気持ちでした」と謙そんした。しかし、「やっぱり、うれしいかな」と、最後は隠していた喜びを表に出した。
グレコローマン転向1年目の昨年のこの大会は、3回戦敗退。国体は大学の2年後輩の屋比久翔平(沖縄県)の控えとして登録されたが出番はなし。まさにノーマークからの優勝だった。
2010年の沖縄インターハイへ向け、沖縄県のレスリング界が一丸となって燃えた時の浦添工高のメンバーの1人だ。同年インターハイでは学校対抗戦で3位に入り、宮城は4戦全勝をマーク。準決勝の霞ヶ浦戦で唯一勝ったのが宮城だった。個人戦では嶋田大育(青森・青森商=現国士舘大)の壁が破れず上位進出ならなかったものの、日体大に潜在能力をかわれてスカウトされた。
1年生の秋季新人選手権で2位。まずまず順調な滑り出しだったが、その後、伸び悩んでしまった。「やればやるほど、自分のレスリングが崩れていくような気がしまして…。このまま続けても勝てない」と感じ、3年生になって「心機一転頑張ろうと思った」と、グレコローマンへ転向。 決勝で中村尚弥と闘う宮城
しかし、日体大のグレコローマンは途中から加入していきなり飛び出せるほど甘い世界ではない。「最初はボロボロでした」と言う。では、この1年半の間に何が飛躍させてくれたのか? 「う~ん…。特にこれ、というものはないですね。強い選手と毎日練習を重ねていたら、知らないうちにこうなっていた、という感じなんです」と振り返る。
練習で毎日闘っている強い選手とは、松本隆太郎(ロンドン・オリンピック60kg級銅メダル)、音泉秀幸(今年の世界選手権66kg級代表)、泉武志(今年の全日本社会人選手権優勝)、階級は下だが田野倉翔太(全日本選抜選手権59kg級2位)などのOB達。
同大学の59、66kg級には、生きのいい学生選手もいて、世界の舞台で結果を出している選手もいるが、「下級生相手だとポイントを取られるのが怖いんで…」と、下級生ではなく負けて元々の強豪OBにぶつかっていくことが多かったという。ある意味では“臆病”、ある意味では“度胸がいい”というこの姿勢も、結果として実力をつけてくれた。
「これだけの選手とやっていると、強くなろうと思わなくても、強くなっていくものだと思うんです」。知らず知らずのうちに上り詰めた学生王座だったようだ。
「勝っちゃった、という気持ちなので、この先のことは何も考えていません。(本格的な)レスリングは卒業までになると思います」と話し、12月の全日本選手権が引退試合となりそうだが、「この優勝で気持ちが変わる可能性もあります」と流動的。
どちらであっても、「この優勝が人生を変えてくれればいいですね」と、努力の結晶を糧(かて)に、社会へ飛び立つ。