2014.08.04

【インターハイ・特集】昨年の県予選敗退をばねに2年ぶりの優勝! 花咲徳栄(埼玉)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子、撮影=保高幸子)

 創部10年目の節目を優勝で飾った! インターハイの学校対抗戦は2年ぶりの出場となった花咲徳栄(埼玉)が、決勝で鹿屋中央(鹿児島)を7-0の全員勝利で圧勝。2年ぶり2度目の優勝を飾った。

 高坂拓也監督は「初日から強い学校とばかり対戦しまして、気が抜けなかった。一戦一戦、一致団結して、たまたま勝った感じです」と最初は謙そんしたものの、「去年は県予選で負けてインターハイに出場できず、大きな忘れ物をしてしまった。今年は創部10年目の節目でもあり、お世話になった方たちへ恩返しをしようと、生徒たちにはっぱをかけてやってきました」と、昨年の悔しさをばねにチームを作ってきたことを明らかにした。

 初日のヤマ場だった昨年2位のいなべ総合学園(三重)とは、4-3と薄氷を踏む思いだったが、そのほかは危なげない勝利。準決勝では、常に全国のライバルとして闘ってきた霞ヶ浦にも6-1と大差で勝ち、内容も満足いく優勝だった。

 創部当初から全国大会で入賞する強豪チームで、今や決勝進出常連校にまで成長した。だが、昨年は県予選で埼玉栄に負けて団体出場はかなわず、チームに大きい爪痕を残した。

■部内にはびこった「勝てばいい」「強ければそれでいい」という風潮

 強豪校に成長した花咲徳栄のチーム内に、「勝てばいい」「強ければそれでいい」という悪い風潮がはびこっていた。そもそも、今の3年生は非常に個性が強く、まとまりに欠ける部分もあった。いろいろなものを1からやり直すため、部長に校内の生徒指導部長も務める矢内潤教諭に白羽の矢を立て、レスリングの技術面は高坂監督、精神面や礼儀面を矢内部長が担当し、体も心も“強化”してきた。

 矢内部長は体育教師で野球の経験があるものの、レスリングは素人。だが、以前は素人ながらアーチェリー部の監督として同校をインターハイに出場させた経験の持ち主。技術面より精神面で生徒を伸ばすことに定評があった。口ぐせは「勝ちに不思議な勝ちあり。負けに不思議な負けなし」―。

 高坂監督は「矢内部長に、勝つ時は理由なく勝つことがあるけど、負ける時は必ず理由がある。花咲徳栄の場合、その理由は“人間性だ”と言われてきました」と、矢内部長の指摘を真摯(し)に受け止めた。技術面の向上以外にも、人間性を高めるために、MTGなどを増やして生徒の教育にあたってきた。

■チームの膿(うみ)を出し切っての全国V奪回

 10年の歴史で定着した悪しき伝統は、ことごとくメスを入れた。まずはあいさつから。斎藤主将は「あいさつがちゃんとできていなかった。掃除は1年生がやると決めつけず、全員で行うようにした」と、レスリングをする以前の部分から着手した。矢内部長は最初に、あいさつの礼の角度も教えたそうだ。

 レスリングは対人競技で、自分が勝てば相手は負けてしまう。常に相手がいるという部分も、あらためて生徒に指導した。「相手チームの気持ちが分かるような選手になってほしかったのです。そういう人間性がなければ、勝っても意味がないと思っていますので」(矢内部長)。

 勝てばいい、強ければいい―。この風潮から一転。今回は強豪チームと対戦し、相手の気持ちもくみ取って、次の試合のパワーに変えた。斎藤主将は「いなべ総合の川瀬(祥史)君(出血でドクターストップがかかったが、本人の闘志は最後まで消えなかった)の姿には感動しました。いなべ総合や霞ヶ浦などの想いを全部持って決勝に臨みました」とコメント。これは矢内イズムがチームに浸透した証だろう。

 ここまでチーム改革が進んだのは、一昨年に全国制覇を達成したにもかかわらず、昨年、県予選敗退で出場できなかったことが一番の理由だ。チームの膿(うみ)を出し切らないと全国の舞台には再び立てないという強い思いで1年間、チームを改革してきた。人間性を高めたチームで、再び全国の頂点に輝いた。