※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(日本協会強化委員長・栄和人)
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第6回「試合後にゴミ拾いをしたサッカー・サポーターに学びたい」
オリンピック以上のイベントと言われるサッカーのワールドカップが終了しました。日本は予選リーグで敗れ、国内での盛り上がりは中途半端に終わってしまいましたが、アスリート仲間として選手には「ご苦労さま」と声をかけたいと思います。
今回のワールドカップでは、日本サポーターの行動が高く賞賛された出来事がありました。多くのメディアで報じられたことなのでご存知と思います。試合終了後、サポーターが観客席でゴミ拾いをし、この映像が全世界に流れ、大きな感動と賞賛を巻き起こしたことです。(下記、You tube動画参照)
地元のテレビ局は、日本が敗れたにもかかわらずの行動に「教育と民度の高さを示した」と紹介。地元紙は「試合には負けたが礼儀正しさで高得点」「応援団のカリスマ性はブラジル人の心をつかんだ」などと報じ、英国、スペイン、韓国、中国など多くの国でこの様子が報じられました。
リオデジャネイロ州政府はこの行動をたたえ、サポーター代表として駐リオ日本総領事と地元の日系団体代表を表彰。カルロス・ポルチニョ環境局長は「言葉が通じなくても動作だけで素晴らしさが伝わってきた。日本人の行動は文化的な遺産だ。リオデジャネイロ・オリンピックではブラジル人にも見習ってもらいたい」と訴えました。
日本のサッカー界では特に珍しいことではなく、1998年のフランス・ワールドカップの時にもサポーターによるゴミ拾いが話題になりました。Jリーグでは、サポーターが試合終了後に自主的に取り組んでいるチームも多いとのことです。
■レスリング界の「会場のゴミ」への意識は?
レスリング界はどうでしょうか。事実として書かせてもらえば、意識は低いというのが現状です。かつて、駒沢体育館で行われた学生リーグ戦のあと、あまりもの汚さに体育館からの厳しい警告が連盟に届いたことがありました。
地方で行われた全日本学生選手権でも同様なことがあり、「レスリングには絶対に会場を貸さない」との通達を受けました。伝え聞いたところによると、その後、この体育館でレスリングが行われたのは18年後で、インターハイという大義名分があったからだということです。
毎年4月に横浜文化体育館で開催されるJOC杯では、試合後の会場の汚さに体育館から抗議を受けたことは、一度や二度ではありません。 2006年JOC杯終了後の横浜文化体育館
私自身について書かせてもらえば、目の届く範囲で整理・整頓は徹底してきました。全日本合宿を訪れた人が驚くことのひとつに、練習後、吉田沙保里、浜口京子、伊調馨らのオリンピック・メダリストが、高校や大学の選手らと一緒にマット掃除をしていることがあります。驚きの声を聞いたことは、一度や二度ではありません。
驚かれることではないと思っています。自分が使った場所をきれいにして帰る…。当然のことであり、新潟・十日町市での合宿ではオリンピック・メダリストであってもトイレ掃除もします。こんなことでの特別扱いはしてきませんでした。そんな先輩を見ているので、後に続く選手も当然のことのようにホーキやトイレ・タワシを持ちます。
■サポーターのプライドある行動が、日本代表に勇気を与える
世界中から賞賛されたサッカーの日本人サポーターの行動を機に、私はレスリング界全体の意識改革を強く訴えたいと思います。国民栄誉賞を輩出した競技です。世界で勝つことだけでなく、行動のすべてが社会のお手本にならなければなりません。 【上】世界チャンピオン(登坂絵莉=左端)もマット掃除を普通にこなす十日町合宿。【下】吉田沙保里や浜口京子も炊事・後片付け当番を受け持つ
そうした行動は、私たち全日本の強化スタッフ、そして選手の大きなエネルギーとなります。レスリングの社会的評価を高めようとする行動は、レスリングを愛するゆえの行動です。その気持ちこそが、私たちに大きな力を与えてくれるからです。
ブラジルでのゴミ拾いを報じるテレビでインタビューを受けた一人は、「私たちは日本人の代表として応援に来ている。日本人として恥ずかしくない行動を取るのです」と答えていました。「サポーターも選手と一緒に闘っている」という意識があればこその言葉であり、行動です。
こうした人たちの存在が、日本を代表して闘っている選手やコーチに、どれだけの勇気を与えてくれることでしょうか。プライドをもって一緒に闘ってくれる人たちを、どうして裏切れましょうか。私たちの心を動かし、勝利への思いを強くしてくれるのは、応援してくれる人の熱い思いなのです。
私たちはマットの上で敵と闘います。応援してくださる皆様は、レスリングを社会で認められる競技にすべく闘ってください。「レスリングは、選手もファンも、すばらしい人たちの集まりだね。だから金メダルを取れるんだね」。こんな言葉を日本国中で聞きたいと思います。
その第一歩が、大会会場でのゴミ拾いです。「サッカーのサポーターには負けない」という気概を期待します。
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