※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) ライバルに連勝し、世界へ飛躍する高橋侑希(青=山梨学院大)
本戦では、終盤に森下のタックルを2度受けてしまい、一時、スコアボードには2-10というスコアが表示されて万事休すだったが、チャレンジ(ビデオチェック要求)の結果、高橋のがぶり返しが有効という判定で6-6へ。このままのスコアで勝ち、薄氷を踏む思いで逆転した。
「しっかり返したつもりだったが、審判のおかげでもあった。あのような勝ち方で悔しかったので、プレーオフでは何としてもきっちり勝ちたかった」と振り返る。その気持ち通り、プレーオフでは会心のタックルが決まって文句なしの勝利を決めた。
■いばらのトーナメント制した
今大会、高橋自身が「1回戦から苦戦続きで接戦をものにしてきた」と振り返るように、厳しいトーナメントだった。初戦で日体大のスーパールーキー、樋口黎と対戦。「失点はするだろうな」と覚悟はしていたが、1点、2点ではおさまらず、8点も取られる苦戦。「最後は高学年の意地だった」と、10-8のスコアでしのいだ。
その次のヤマ場は準決勝。昨年の世界選手権代表の稲葉泰弘(警視庁)には、以前の大会ではテクニカルフォールで敗れている選手だった。ここも8-7と1点差の辛勝。だが、「内容は甘いところがあったが、次への糧になった」と、実績のある大先輩に勝ったことが、決勝の森下戦へ勢いがついたことは間違いない。 決勝の終盤で見せた高橋のがぶり返し。高橋のポイントとなって勝利へつながった
世界ジュニア選手権や昨年のユニバーシアードは森下に敗れて代表入りを逃しており、苦い経験がある。アジア大会と世界選手権の代表をかけた今回の闘いでは、“またも”森下に負けるわけにはいかなかった。
■ライバルの森下に2連勝で新チャンピオンに
高橋の武器は、スピードあるタックルとパワーだ。だが、気持ちの問題で森下戦になると、力を発揮できないことが多かった。終盤になると森下の意地に屈して逆転されるというのが負けパターン。何度も悔しい思いをしてきた。
「攻める力はあるのに、攻めることができない。返される怖さもあった」―。この原因を、高橋は「気持ちの問題だった」と分析。「今回は、強気で思い切って行こうとおもった」と決勝、プレーオフともに、常に攻める姿勢を崩さなかったことが勝利を引き寄せた。
階級変更があり、男子の最軽量級は55kg級から57kg級に引き上げられた。「減量が少なくてうれしい。減量は問題ないので、アジア大会と世界選手権、両方出たいです」と目を輝かせた高橋が見据えるのは、2020年の東京オリンピック。高校時代、「ロンドン・オリンピックの代表選考会にからみたい」と、世界の舞台での活躍を強く希望していた。
「東京オリンピックを目指しています。通過点として、リオデジャネイロも狙っているので、オリンピック2連覇も視野に入れています」―。ユース・オリンピック金メダリストが、二回りも大きくなって、本当の“世界”へ初挑戦する。