※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫) 決勝で勝って、にっこり笑顔の渡利璃穏(アイシン・エィ・ダブリュ)
この優勝で、すでに決まっていたアジア大会(9月、韓国・仁川)だけでなく、世界選手権(9月、ウズベキスタン・タシュケント)の代表の座も確実とした。
渡利にとって、今大会は全日本選手権の時とモチベーションが違っていた。「全日本選手権の優勝は、学生(至学館大学)の立場でしたが、4月から社会人となり、一人の企業人として出場しました。職場の方々もたくさん応援に来ていただき、感謝の気持ちがありましたので、負けられませんでした」
愛知県安城市に本社を置くアイシン・エィ・ダブリュは、主力のオートマチックトランスミッション事業で世界1位のシェアを誇り、、カーナビゲーションシステムでは世界シェア2位という世界的企業。従業員は1万4400人で、2013年度の売上高は9391億円(同社ホームページによる)。渡利は、同社で事務の仕事をしながら夢に向かって日々の練習を重ねている。その夢とは、2016年のリオデジャネイロ・オリンピック。
同社の企業理念には次のように記してある。
私たちは多様な人材がそれぞれ個性やスキルを発揮して活き活きと仕事に取り組める企業風土を醸成し、一人ひとりの「成果創出・自己実現による達成感」と「豊かな暮らし」の実現を目指します |
自己実現による達成感-。渡利にとっては、まさにオリンピックでのメダル獲得である。渡利は同社所属選手として、夢の実現に向けて一歩を踏み出した。 決勝、逆転を狙ってタックルを仕掛ける
何年前だったかは、本人も明確には覚えていない。おそらく至学館高校レスリング部の門をたたいた時だったはずだ。栄和人監督から「名前が璃穏(りお)なのだから、リオデジャネイロ・オリンピックで必ず代表になりなさい。名前も同じだから、話題になるぞ」と激励された。
ハッとした。オリンピック開催地と自分の名前が同じ…。栄監督の激励の言葉を実現させようと心に刻んだ。「レスリングでは穏やかではありませんが…(笑)」と前置きしながら、リオデジャネイロ・オリンピック代表へ向けて力強い一歩を踏み出した。そのためにも、まずは本格的な世界挑戦となる今年、世界選手権とアジア大会で幸先良いスタートを切りたい。
「伊調(馨)さんが守ってきたこの63kg級で、まず世界選手権とアジア大会を制したい」。璃穏の夢は、リオで現実となる!