※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
日本協会・高田裕司専務理事からJOC杯を受ける高谷大地(拓大)
昨年の全日本選抜選手権60kg級で優勝し、全日本選手権は66kg級で3位。そしてW杯での飛躍となれば、「勝って当然」というムードが充満していた。それを多少のプレッシャーとして感じたことは間違いないようだが、試合後は「自分でやってきたことをやっただけ。特に感想もないです」とさらりと言ってのけ、王者の風格を見せた。
決勝の相手は昨年の世界カデット選手権63kg級2位の藤波勇飛(三重・いなべ総合学園高)で、準決勝で前年王者を破って決勝進出を果たすなど、高谷に匹敵する素材を感じさせる選手だ。途中、高谷のローリングが回り切らずにあわやフォール負けの体勢に追い込まれたりもし、会場が沸いたシーンもあった。しかし、このピンチを冷静に乗り越えてペースを取り戻すと、最後は13-3のテクニカルフォールで勝ち、実力の違いを見せた。
この大会に臨むにあたり、母から「自分に負けなければ、負けない。おまえが負ける時は自分に負けた時だ」と言われ、この言葉が胸に響いていたという。バランスを崩してフォールの体勢に追い込まれ時は、一瞬、「ここでフォールされれば楽になるのかな」という気持ちがよぎったが、「それは自分に負けることだ」と自分自身に言い聞かせ、ピンチを乗り越えられたという。
その粘りは合格点だが、ピンチを迎えた理由は「攻撃し切らなかったから。甘さですね」と振り返り、反省も忘れなかった。一方、藤波を「高校3年生でここまで上がってくるのは、とても強い選手で、勢いがあるからでしょう。自分のミスだけではなく、相手に実力があったがゆえの失点という部分もあると思います」と、その強さを認めた。
近い将来、ライバルになるであろう選手を“若葉”のうちにたたいた形で、こうした積み重ねも不動の王者になるために必要なこと。「自分は全日本の中では追う立場なのですが、追われる立場にもなりました。安定したチャンピオンを目指して頑張りたい」と話し、1ヶ月半後の全日本選抜選手権へ向かう。
![]() ローリングを失敗し、あわやフォール負けのピンチに陥った高谷(赤) |
![]() ピンチを乗り切ったあとは、冷静に試合を進めてポイントを重ねた |