※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
佐藤喜歌(自衛隊)
4月のアジア選手権(カザフスタン)出場の“内示”も受けており、続けざまに好機を手にした。「ワールドカップは、選ばれるとは思っていませんでした。まだ実感が沸きませんが、代表になった以上は試合に出て勝ちたい。年の初めから続けざまにチャンスがめぐってきました。いい感じでスタートできる年になりそうです」と燃えている。
■自衛隊選手の覚悟のすごさに驚がく!
静岡・焼津ジュニアスクール出身。父・隆さんがレスリング選手だったことで、保育園の頃から1歳上の兄とともに遊び半分でレスリングに親しんだ。レスリングから離れそうになった時もあったが、親から「これだけは続けなさい」と頼まれるように言われ、マットを降りることはなかった。
クラブの方針が、勝利を追い求めるより、「楽しさの中でレスリングをやる」ということもあり、初めて全国少年少女選手権に出場したのは小学校5年生の時(2003年=女子36kg級)。見事に初出場初優勝。これが自信となってレスリングにのめりこんだ。しかし、意気込みとは裏腹に、中学、高校(焼津水産高)では全国一がなく、次に全国大会で優勝するのは自衛隊入隊2年目(体育学校入校直後)となる2012年ジュニアクイーンズカップまで待つことになる。
自衛隊体育学校に入校した直後のJOC杯で優勝(2012年4月)
その悔しさを晴らしたい気持ち、応援してくれる家族の期待にこたえたい気持ち、何よりも「レスリングが好き」という気持ちから、自衛隊を選んでレスリングを続けることになった。世界を目指す“プロ集団”に加わって感じたことは、「このくらいの覚悟をもってやらなければ、勝てないんだ…」というカルチャーショック。高校時代の自分がいかに甘かったかを痛感した。
■全日本選手権の表彰台に立ち、次は世界への飛躍
そんな衝撃が、やる気に変わってくれた。入隊直後のジュニアクイーンズカップで実に8年8ヶ月ぶりの全国一となり、3週間後のJOC杯でも優勝。翌月の「ハリ・ラム・グランプリ国際大会」(インド)でもカザフスタン2選手、モンゴル、インドの4選手を相手に無失点で勝ち抜いて金メダルを獲得し、周囲が驚くほどの急成長を見せた。心境の変化が大きな要因であったことは間違いない。
その後は勝ったり負けたりを繰り返し、勝負の世界の厳しさを再び経験するが、昨年の全日本選手権で、3連敗中の歌田圭純(東洋大)を破り、初めて全日本レベルの大会の表彰台へ。ひとつの壁を乗り越えたといったところで、いよいよ世界へ向けての飛躍が始まる。
昨年の全日本選手権63kg級の表彰式。伊藤友莉香(左)、渡利璃穏(中)のが城を狙う佐藤(右)
■伊調馨が築いた女子63kg級の伝統は確実に引き継がれる!
そうした中から出てきた気持ちは、「練習でやってきたことを、試合ですべて出そう」という思い。結果を残さねばならないプロ集団だが、「それをやっていけば、自然に結果がついてくると信じています」と言う。
オリンピック出場を果たすには、63kg級全日本チャンピオンの渡利璃穏(至学館大)や同2位の伊藤友莉香(自衛隊)を破ることが必要だ。今大会は国別対抗団体戦なのでライバルへの挑戦は休戦。練習でやってきたことを世界の強豪相手に試す場となる。それがしっかりできたなら、今年の下半期、女子63kg級は稀に見る大激戦階級と変わるだろう。
伊調馨(ALSOK)が階級を下げ、工藤佳代子(自衛隊)がアップして弱体の懸念もあった日本の黄金階級は、佐藤の躍進によって力強く底上げしていきそうだ。