2011.11.15

【全日本大学選手権・特集】チャンピオンのプライドを取り戻した優勝…66kg級・井上貴尋(日体大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=増渕由気子)

高校時代からのライバルを破って優勝した井上

 11月12日に行われた全日本大学選手権の66㎏級は、9月の全日本学生選手権グレコローマン66㎏級優勝の井上貴尋(日体大)が、決勝で昨年の学生王者の田中幸太郎(早大)を2-1(1-0=2:04,0-1,2B-2)で下して初優勝を遂げ、スタイル違いで今季2個目のタイトルを手に入れた。

 両者ともに攻めのスタイルで、タックル合戦が予想されたが、ふたを開けてみると、田中が攻めて井上が守りの展開になった。第1ピリオドは、田中が3度目のタックルで井上の足をつかむが得点ならず、クリンチへ。ボールは青が出て井上の攻撃権。落ち着いて1点を奪った。第2ピリオドは40秒に田中のタックルを受け、一時は返す体勢になったが、圧力をかけられてバックポイントを奪われた。

 勝負の第3ピリオドは、第2ピリオドと同じように田中のタックルを井上が返すポジションに持っていくが、「返しにいくと第2ピリオドと同じく失点してしまう」と判断した井上は、とっさにネルソンに切り替える。反応できなかった田中から2点を奪ってから、バックポイントを許して2-1。その後1点を許したが、2-2のビッグポイント差で振り切った。

 井上VS田中という決勝のカードを見て、フラッシュバックするのが2008年の埼玉インターハイ60㎏級決勝だ。その時は井上が無失点で田中を退けて優勝し、大会MVPにも選出された。田中は高校三冠王(2007年)、井上は2008年インターハイMVPの肩書きで、鳴り物入りでそれぞれ早大、日体大に進学した。

■1年間のブランクを、ひたむきな練習で埋める

 しかし、進学後の両者は対照的な道を歩むことになった。井上は昨年、チームが出場停止となったことで公式戦にほとんど出ることができなかった。対する田中は順調に成長し、JOC杯ジュニアオリンピックや全日本学生選手権で優勝し、昨年の世界ジュニア選手権では銀メダルを獲得するなど国内外で活躍。66㎏級の期待のホープになっていた。

決勝の第1ピリオド、クリンチからテークダウンを決める

 処分が解け、ようやく実戦のマットに戻った井上だが、復帰戦となった昨年のこの大会で試練に襲われる。60kg級に出場し、決勝で高校時代ベスト8止まりだった鈴木康寛(拓大)に1-2(0-3,8-6,0-2)で惜敗し、優勝を逃してしまった。1年間のブランクで「同期の選手たちに抜かれてしまった」と、インターハイMVPのプライドに傷が付いてしまった。

 そんな傷心を癒すには、ひたすら練習しかなかった。「日体大の練習を自分のスタイルでやり抜いた」と地道に練習を重ねたことで、今年9月の全日本学生選手権は、フリースタイルはベスト8に終わったが、専門外のグレコローマンで優勝し、同スタイルの最優秀選手に選出された。

 専門外といっても、井上は高校時代、インターハイ(フリースタイル)と国体グレコローマンで優勝し、両スタイルでトップを取った選手。「来年にはどちらかに絞らなくてはいけないのですが、フリースタイルでは『差し』、グレコローマンでは『リフト』が好き」と、両スタイルに興味を持つ中で、敢えてフリースタイルを専門にしている。

 12月の全日本選手権は、米満達弘(自衛隊)が五輪出場枠を獲得してきたフリースタイル66㎏級に出場する。「1パーセントの可能性がある限り、頑張りたい」と、当面はフリースタイルで日本のトップを目指すと決めている。1年前の試練を、今大会で乗り越えた井上。インターハイMVPのプライドを取り戻した大会になった。