※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)
慎重に試合を進めてV11を達成した吉田沙保里(ALSOK)
ポスト吉田の一番手と目されていたのは20歳の村田夏南子(日大)。吉田自身も「決勝の相手は村田選手と予想していた」が、吉田への挑戦権を得たのは準決勝で村田との激戦を制した浜田千穂(日体大)だった。
その浜田との決勝を、吉田は慎重に闘った。奪ったポイントは4点で失点が1。危ないシーンはほとんどなかったとはいえ、快勝と呼べる内容ではなかった。「失敗は許されないという気持ちで硬くなってしまったところはある」とは本人の弁。
浜田千穂(青)の猛攻に、防戦一方のシーンもあったが…
日本スポーツ界の顔とも言える吉田の仕事はレスリング活動だけにとどまらない。テレビに出演してオリンピックをアピールすることもあれば、全国各地に出かけてレスリングの普及に努めることもある。レスリングに没頭し、打倒吉田に燃える若い選手とは置かれている立場も大きく違う。
ただし、やや弱気にも聞こえる発言は、現状を直視し、これからやるべきことを見極める冷静な姿勢の裏返しではないだろうか。「勝っている限りはやめられない」。
オリンピック3連覇のプライドと、レスリング界の顔という責任感が吉田の強みとなっている。吉田の進撃は、まだまだ続きそうだ。