※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
岡倫之(日大)
磯川孝生(男子フリースタイル96kg級)のロンドン・オリンピック出場に続き、山口剛(ブシロード=同級)の世界選手権8位入賞で活気づいている男子フリースタイルの重量級。この流れに乗り、新旧交代を実現させて世界へはばたこうとしているのが、来年4月に山口と同じブシロードへ進む同120kg級の岡倫之(日大)。
昨年の全日本選手権は前年王者の荒木田進謙(現警視庁)を破って初の全日本王者へ。今年は荒木田にリベンジされて世界選手権の出場はならなかったが、恵まれた練習環境へ身を投じることもあって燃えており、「絶対に優勝。それ以外は考えていません」と、今度こそ真の新旧交代を目指す。
■昨年の優勝は「勢いや運があった」と振り返り、荒木田を越えたわけではない
昨年の全日本選手権は「勢いや運があったと思う。実力以上のものが出た」と振り返る。当時の荒木田は警視庁警察学校へ所属しており、勤務の関係で練習不足は明白だった。地力は荒木田の方が「上だった」と思っている。
昨年の全日本選手権決勝、初優勝を決め、雄たけびをあげる岡
警視庁へ進んで練習環境を得た荒木田に対し、今年は6月の全日本選抜選手権で2度闘い(決勝、プレーオフ)、国体決勝でも顔を合わせ、いずれも壁を破れなかった。しかし、うち2試合は1点差の試合。「もう一歩という場面が多かった。実力差は縮んでいる」という確かな手ごたえを感じている。
しかし、善戦を何度繰り返しても勝利には変わらない。「結果として負け続けているわけですから、これではダメです。今度こそ追い越さなければならないと思います」。技術と体力は追いついていると思っており、「あとは戦術であり、練習の積み重ね(による自信)だと思います」と話す。
今年は山梨学院大にカザフスタンからの留学生オレッグ・ボルチンが加わったため、学生タイトルを手にすることはできなかったが、強化の面で考えれば貴重な経験をすることになった。日本人とは違うパワーを持つ相手と国内にいながら練習や試合で闘うことができた。「ボルチンを倒さなければ世界では勝てない」という思いが、練習へ臨む気持ちに張りを持たせ、実力をアップさせたことは言うまでもない。
打倒荒木田の作戦を聞くと、「シークレットです」とニヤリ。ボルチンとの闘いを経て、これまでにない作戦を考えているのかもしれない。
■ワールドカップとユニバーシアードで気持ちが高まる
ボルチンの加入以外にも、今年は貴重な経験を積むことができた年だった。2月に日本代表チームのメンバーとしてレスリング王国のイランで行われたワールドカップ(W杯)へ出場。「普通なら1度負けたらそれで終わりですが、5試合闘えたというのは大きいです」ということのほか、超満員の観客の中での闘えたことが大きい。だれもが「レスリング選手としてのプライドを感じる」という思いを持つ経験で、気持ちは高まった。
本当の荒木田越えを目指し、練習に励む岡
7月には繰り上げ出場だったが学生の祭典、ユニバーシアードに出場。「オリンピック気分を味わうことができました。今までは、オリンピックを目標にしてはいても、『無理かな』という気持ちも少なからずあった。ユニバーシアードを経験したことで、『絶対に行ってやる』という強い気持ちが出てきました」と気持ちに変化が出た。
2つの国際大会を経験してモチベーションが上がったことに加え、秋には山口剛の世界選手権での奮戦というニュースが入ってきた。「すごく刺激されました。自信にもなっています」-。
イランでW杯があって出場できたこと、ボルチンが加入したこと、ユニバーシアードに繰り上げで出場できたこと、山口が日本重量級でもやれることを示してくれたこと…。岡に追い風が吹いており、タイトルには縁のない年だったが(サンボと全日本ビーチ選手権を除く)、飛躍のためのエネルギーを充電できた年だったと言えよう。
そんな年の最後を締めくくるのが全日本選手権。「ブシロードのサポート体制はすばらしいと思います。情けない結果は残せません。世界での成績はまだないですが、最低限、全日本のタイトルを持っていきたい」。フリースタイルの重量級に、新たな戦力が誕生するか。
岡倫之(おか・ともゆき=日大) 1991年6月12日生まれ、22歳。群馬県出身。埼玉・花咲徳栄高卒。09年に全国高校選抜大会と国体で優勝。日大に進み、10・11年にJOC杯で勝ち、11年は全日本学生選手権でも優勝。2012年に全日本選抜選手権と全日本選手権を制した。184cm。 |