※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) 世界カデット王者を破って優勝した松井涼
松井は「投げ技が得意。自分が持っている技がかかってよかった」と安堵の表情。それもそのはず。この大会が高校生最後の大会だったが、これまでの2年半で全国タイトルはなかったからだ。それだけに喜びはひとしおだ。
小柳は準決勝までを、そり投げなどを中心に5点技を繰り出すなど世界王者のオーラ全開で勝ち上がってきた。松井もフォール勝ち2試合、テクニカルフォール勝ち1試合と圧勝で勝ち進んだが、グレコローマンの実績を考えると、小柳の優勢は揺るがなかった。
だが、開始早々、松井が小柳からバックを奪ってローリング。意外な展開に会場からはどよめきが起こったほど。「試合前は相手が世界チャンピオンと聞いてビビったんですけど、(勝負は)何が起こるかわからないので、積極的に攻めようと思った」という心構えが功を奏した。
その後、小柳の反撃が始まり、投げを受けてニアフォールに持ちこまれたが、グラウンドでうまくスイッチして、逆に松井がフォールの体勢に持ちこみ、追加点を奪って7-3とテクニカルフォールまであと3点。さらに松井にチャンスが訪れた。 小柳をニアフォールへ追い込む松井
ガッツポーズは出したものの、世界王者に勝ったことには冷静だった。「得意の投げ技がたままた決まっただけ」と地力の差は認めた。
今大会、松井は全試合短時間勝負で決着をつけた。最長でも1分20秒。これは小柳の最長試合(2分10秒)よりも短い。それには理由があった。「投げしかないので、ばれたら終わります。本来はフリースタイルの選手なので」と、得意の片足タックルを封印して臨んだグレコローマンでは、「投げ」が頼みの綱だったからだ。
フリースタイルでは全国3位が最高だったが、グレコローマンで日本一に。これをきっかけにグレコローマンに専念することもひとつの方法だが、その気持ちは、「ないですね(笑)」と苦笑いを浮かべた。ただ、グレコローマン特有の投げ合いなどには、魅力を見出せたようだ。
「大学ではフリースタイルをやりたいが、(指導者との)相談です」。世界王者に勝ったことが、松井のレスリング人生の転機となるか―。