※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) 全日本選手権へ向けて弾みをつけた田中幸太郎
シニアの頂点に立ったのは、昨年の全日本選抜選手権に続いてで、国内2個目のビッグタイトル。「社会人選手として初めて優勝できたのは、会社のサポートのおかげです。会場にも会社の方が応援に来てくれました」と、恵まれた環境で試合に臨めたことを勝因に挙げた。
京都八幡高時代に、2年生にして高校3冠王(全国高校選抜選手権、インターハイ、国体)に輝いた2007年の秋田国体から、ちょうど6年が経った。昨年の岐阜国体では決勝まで進出し、5年ぶりの“国体優勝”を狙ったが、V2を狙った石田智嗣(東京・警視庁)に敗れて準優勝だった。
今年こそ優勝だ-。そんな思いを胸に試合に臨んだ田中にとって追い風が吹いた。東京のエースとして登場した第1シードの石田が初戦で大学選手に逆転フォール負けを喫する番狂わせが起こった。これでかなり有利な状況になった。
もっとも、周囲が田中の追い風ととらえたのに対し、田中は「石田さんが負けた。自分も気を引き締めないといけない」と、予想以上の若手の伸びに警戒心を抱いた。実際、3回戦では栗森幸次郎(秋田・日体大)に2失点。最終的にはテクニカルフォール勝ちを収めたが、全4試合で唯一、第2ピリオドにもつれた。 決勝も9-1で勝利した田中
事実、今年の世界選手権は、米満でも石田でも田中でもなく、“大穴”と言っもいい井上貴尋(東京・自由ヶ丘学園教)が出場。米満の独断場だった66kg級も、リオデジャネイロ・オリンピックまでの道のりは、群雄割拠の階級になるかもしれない。
その井上の存在も田中の刺激になった。「世界選手権で井上がそこそこやれていた。あのロペス(キューバ)とも互角に戦ってましたよね。本当は自分が出ていなくてはいけないのに…。悔しくて、絶対に国体は優勝だと思った」と決意を固めていたようだ。
次の目標は12月の全日本選手権。昨年の全日本選抜選手権に続いて国体を制した田中にとって、国内で優勝していないタイトルだ。「今年の集大成です。本番までの間に、自身で海外で試合や練習をこなし、強くなって臨みたい」と、今年の世界選手権で8位と健闘した山口剛(ブシロード)のように、海外武者修行を経て全日本選手権に出場するプランを掲げた。