※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子)
史上4、5人目の国体少年3連覇達成の文田健一郎(左)と奥井眞生
■グレコローマンの選手としてリオを目標に掲げる文田
ロンドン・オリンピックで日本男子24年ぶりの金メダルをもたらした米満達弘(自衛隊)の母校の韮崎工は、高校からグレコローマンに取り組む学校として有名。文田は父の敏郎監督の元で、フリースタイルのみならずグレコローマンでもしっかりと練習に取り組んだ。
その成果もあり、今夏のインターハイでは全国高校選抜大会王者の藤波勇飛(三重・いなべ総合学園)をパワーでねじ伏せて優勝した。文田は「本格的に取り組む最後のフリースタイルかもしれない」と、以後はグレコローマンに専念することを決意して8月の全国高校生グレコローマン選手権に出場し、史上初の3連覇を達成。
「そり投げが3年間自分を支えた技」。今大会は全試合通して積極的にそり投げにこだわった。快勝続きで決勝戦に挑んだが、自分の目の前で“事件”が起きた。同期で、この夏、世界カデット選手権の男子グレコローマンで日本人初の金メダルを獲得した55kg級の小柳和也が、決勝戦で高校無冠の松井涼(岐阜・岐阜工)にテクニカルフォール負けを喫した。 4試合圧勝の文田
集中力を高めた文田は、開始早々にスタンドから組みついてきれいなそり投げで5点を獲得。フォールを狙おうとそのまま押さえ込みへ。結局、6-0で試合を決め(5点技1回のテクニカルフォール勝ち)、“高校グレコローマン”を無敗で締めた。
一見して、3年間通して苦がなかったように見えるが、今年は体調不良による調整失敗で関東高校選抜大会に出られず、3月の全国高校選抜選手権に不出場。JOC杯でも優勝できず、インターハイは団体が県予選を勝ち抜けずに個人戦のみの出場と苦い経験もした。だが、それらをバネに夏場からの後半戦でこれだけ盛り返したのは「よかったと思う」と安堵の表情を浮かべた。
高校の試合は国体が最後だが、文田にはもう一つ目標がある。昨年3位と好成績を残した12月の全日本選手権で、再び表彰台を狙う。「3年後のリオ五輪に出場したい。それを見据えたら、今年から狙わないとならない。世界では20歳のチャンピオンとかいますから」。
2016年のリオデジャネイロ・オリンピックの時は、文田は21歳。20歳で世界選手権に出て、出場枠を獲得するなら、19歳、つまり来年には全日本のトップを取らねば間に合わない。「来年、日体大に進学します。楽しみで仕方がないです」。グレコローマンの育成に定評のある日体大で、文田が最短コースでオリンピックを目指す。
■中量級グレコローマンで無敵の奥井は「大学ではフリースタイルをメーンでやりたい」
文田と同様、高校グレコローマンで無敵の強さを誇った奥井も、今大会は全試合テクニカルフォールで優勝し、3連覇を達成した。文田とは逆で、奥井は全国高校選抜大会で優勝しながら、8月のインターハイは準決勝で白井勝太(東京・帝京)に黒星。その悔しさを晴らすかのように、全国高校グレコローマン選手権と国体で圧勝して見せたが、3連覇がかかった今回は少しプレッシャーを感じていたという。 決勝でローリングを決める奥井
だが、この3年間、しのぎを削ってきた浅井翼(京都・京都八幡)や白井がいないグレコローマンでは奥井の独断場だった。決勝でも、一度バックポイントを奪うと、連続ローリングを鮮やかに決めてわずか1分39秒で締めた。
今季、奥井はフリースタイルで1冠、グレコローマンで2冠を獲得。やはり大学進学後は文田のようにグレコローマンを望んでいるものかと思われたが、間髪入れずに、こう答えた。「フリースタイルをやりたいんです。グレコローマンは勝てていただけなんです」。フリースタイルを中心になりたいのが本心だった。
「パワーは3人の中であると思います。でも、浅井がローシングルを得意としているにに対し、自分は技術が足りてないので、これじゃ大学に行っても、勝てないと思います」とウィークポイントも自覚している。しかし、ばん回するだけの算段はついている。「来年は国士舘大に進学します。学生二冠王者の嶋田(大育)先輩からタックルを教わりたいです」と、高校までつけた体力をベースにして、大学で技術を伸ばす腹積もりのようだ。
高校グレコローマンで輝きを放った2人。それぞれの未来はいかに-。